ひ に く ぜ り ー
ひ に く 100 ぱ ー せ ん と の ぜ り ー は い か が ?

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>

Profile
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
fg

 

| - | 02:49 | comments(37) | trackbacks(0) |
q


彼の口から零れた吐瀉物と
外から香る誰かの吸った煙草の入り混じった匂いに俺の気分まで悪くなった。

口元を一生懸命押さえる彼が苦しそうに咳き込む。
慌てて駆けつけて、骨ばった広い背中をそっと擦った。

「なんでそこまでして耐えようとすんだよ」

荒い息を吐きながら、それでも諦めずに耐え続ける彼に
俺のほうが耐え切れなくなってとうとう聞いてしまった。

彼はやけに力のこもった目で俺を見詰めて、
息を整えながら、掠れた声で呟くように言い放つ。

「好きだからだよ」

彼の手が伸びてきて、ぐいっと強い力で襟元を掴まれる。
唇が触れ合うのも束の間、彼は苦しそうに咽て、胃液を床一面にばら撒いた。

見ていられなくて、俺が彼のためにしてやれることなんて一つしかないのに、それだけはしたくなくて、
ほかに何か出来ることはないかと理由を探して、また骨の浮き出た広い背中を撫でた。

いつも大きく感じた、彼の背中が堪らなく小さく見えた。

 


「周」

彼が、僕の名前を呼ぶ。
強い力で押し倒され、彼がまた俺の襟元を掴む。
瞳を硬く瞑った際に見える睫の長さに息を呑んだが、すぐさま我に返って彼を俺の体から引き剥がした。

駄目だ、これ以上。こんなことしたら絶対駄目だ。俺もこいつも、抜け出せれなくなる。

「もうやめよう」

思ってもいないことを言ってみる。
彼がこの提案を受け入れないと知っていながらも、口にしてみる。
まるで、彼を試すかのように。

「いやだ」

彼が短く叫ぶ。
俺の胸に無理矢理つくってみせた表情とは裏腹に安堵の気持ちが広がった。
そしてそんな自分に眉を顰める。

「周、」

突然床に座り込んで、項垂れた彼が弱弱しく俺の名前を呼んだ。長い腕がこちらに向かう。
手を伸ばしちゃいけないって分かってる。この手を掴んだら最後だってことも。

だから、絶対伸ばしちゃいけない。手放さなくちゃいけない。手放してもらわなくちゃいけない。

「周」

懇願するように彼は俺を見詰める。そっと伸ばされた両手は襟元ではなく今度は俺の両手を包み込んだ。
震えた肩と声と手に涙が出そうになる。

「周」

優しくない俺は、彼のことを思ってやれない俺は、彼の手を払いのけて、
小刻みに震える自分より大きな体を抱きしめた。


強請って縋って受け入れられたらすぐ拒む


こんな関係になってしまったのは、彼に原因がある。優しすぎる彼がいけないのだ。
作り笑いを浮かべて、自分以外の人間を心の中では下種呼ばわりしているような僕を受け入れて、理解してくれた、寛大すぎる彼が悪いのだ。
おかげで性別という大きすぎる壁をいとも簡単に超えてしまった。

けれど僕は自分以外の人間を人間と思わないような人間だ。
彼が傍に居る今も、自分と彼さえ居れば他の人間はどうだっていいと本気で思っている。
だから偏見や差別だって平気で出来るし、自分と同じ同性愛者に対してもそれは例外ではない。

同性に恋愛感情を抱くだなんて気持ちが悪い。
自分と同じ硬い胸を触りたいと思うだなんて、自分より広い肩にときめいたりするなんて、本当に気持ちが悪い。
だから、彼に告白されたとき、僕は正直ぞっとした。

自分が彼を見ているような目で、彼も自分を見ていたのか、と。

彼と恋仲になってから、彼に対する嫌悪感は一層強くなった。
自分の言葉に本気で照れたりする彼を見て心底悪寒がしたし、またそんな彼が堪らなく愛しかった。

こんな矛盾した気持ちをずっとずっと抱えたまま彼と接していたら、脆い僕はいとも簡単に崩れてしまった。
彼と初めて唇を交わした瞬間、吐き気が込み上げてきたのだ。

突然のことに怯んだ僕は、わざとらしく彼との話をそこで打ち切り、一目散に家に帰った。
そしてトイレでげーげー吐いた。吐きながら散々泣き喚いた。

彼が好きなのに、長年の差別意識がたっぷり染み込んだ体が彼を拒んでいたのだ。
自業自得だ。当たり前だ。
今まで散々差別してきたくせに。

そう言い聞かせてみても、やっぱり悔しくて、絶対に離れるもんかとやけになって、
こみあげる吐き気を無視して何度も彼と唇を合わせた。

そのせいで吐き気を感じてから実際に吐瀉物を吐き出すまでの時間が一気に短縮された。
学校の目と鼻の先の家に帰ることすら間に合わなくなって、学校のトイレで吐くようになった。

数を重ねるたびに、学校のトイレの個室に入るの時間すらなくなり、
涙を流して声を堪えながら一人で誰も居ないトイレの床を拭くようになった頃、
とうとう彼が僕の異変に気づき始めた。

彼に知られてしまっては全てがおわる。 そんな思いが僕を強くさせ、一時は彼と唇を何度合わせても吐き気など一切感じなかった。
しかし、長くは持たず、調子に乗って僕が彼を押し倒した途端、急な吐き気に襲われた。

急いでトイレに駆け込んで、驚くほど大量の吐瀉物に涙が溢れた。
自分の体が自分のものじゃないような気がして酷く恐ろしかった。

それから僕の体は、彼とキスするどころか、彼に触れられることすら拒むようになったのだ。
さすがにそこまで拒まれるようになって、気づかない彼じゃない。
彼はもう原因すら見透かしていた。そしてその事を隠しながら、僕と距離を置こうとした。

彼と居る時間が急激に短くなり、
彼の近くに今まで遠ざけさせていた女子が集まるようになってさすがに耐え切れなくなった僕は、
今夜、僕は彼の家を訪れたのだ。親と喧嘩したなんていう単純な嘘を理由に。

「喧嘩?珍しいな。」

笑顔がいつもとぎこちなかったのは、やはり、僕の嘘を見抜いていたらなんだろうか。
部屋に入れてもらった瞬間、僕は彼を押し倒した。

「落ち着け」

あせる様子を一切見せず、彼は僕の腕を掴んだ。
僕より背が低いのに、僕より腕力がないはずなのに、なんでこんなに力強いんだろう。
なんで、こんなに……。

喉元まで迫る吐瀉物を無理に飲み込んで、僕は彼の唇を塞いだ。
ふ、と窓から流れ込んだ煙草のにおいが鼻を掠めて、急いで彼から離れる。

人の家なのに、彼の部屋なのに。

情けなくて涙が出た。彼が水の入ったバケツと雑巾を差し出した。
いつから、準備していたんだろう。なんで、こんなにも見透かしているんだろう。

情けなくて、悔しくて、愛しくて、懲りない僕は彼の両手首を掴んだ。
彼が寂しそうに目を伏せて、僕の手を振り払った。

苦い胃液が口の端から溢れる。
呼吸が出来ないほど苦しくなって、咳が止まらない。

手の平で、口を塞いで彼にまた近づいた。
彼の目元に水滴が溜まっているのをみて、経験したことのない胸の痛みに襲われた。

彼が吐き出すように一言で捲くし立てる。

「なんでそこまでして耐えようとすんだよ」

なんでって、そんなの答えは決まっているのに。
本当に彼は本心からそう尋ねているのだろうか。

彼が寂しそうにこちらを見詰める。

がんがん痛む脳の叫びを無視して、機械的に呼吸をしながら言い捨てた。
何を今更。訊かなくても分かるだろうに。

「好きだからだよ」

涙を流す彼もやっぱり美しくて、涙が出そうなほど美しくて。
手を伸ばさずにはいられず、彼の襟元にありったけの力を込めて握り締める。

嫌な音が部屋中に散らばる。
こんなに部屋を臭くしてでも、僕のやっていることに果たして意味はあるのだろうか。

頭が痛い、喉が痛い、気分が悪い。目が霞む。
立つことさえ困難なのに、彼に背中を撫ぜられた瞬間、
一気に今まで体に圧し掛かっていた色々な重みが一気に消えうせる。

だめだ、なきそう。
だめだ、これ以上依存しちゃ。

分かってるのに、体は、心は彼を求める。
求めているのに、彼が近づいた途端、それを拒む。容赦なく。

ごめん。ごめん。

「周」

堪らなくなって、僕は彼の名前を呼んだ。
ああ、駄目だ、立てない。

彼の腕を掴んで、一気に引き寄せた。彼が崩れるように倒れる。
染みの沢山出来た襟元を再び掴む。これは僕の胃液なんだだろうか、それとも彼の涙なんだろうか。
彼が息を呑む声が聞こえた。一気に彼が僕を押しどける。

「もうやめよう」

分かってる、分かってる。
やめたほうが、彼のためにも僕のためにもなるんだ。
どちらとも手を離して、何もなかったフリをすればいいんだ。
分かってる分かってる。

彼だってそう思ってる。それを望んでる。
そのはずなのに、


「いやだ」


そのはずなのに、なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。
僕が叫んだ途端、安心したように息を吐くんだ。

そんなんだから、僕が変な期待をして彼を手放せなくなるんだ。
僕を受け入れた君は悪くない。僕が悪い、こんな風になってしまったのは僕の所為だ。
僕が吐きさえしなければもう少し楽しい生活を送れていたはずなんだ。

でも、いつまでも、逃げようとしない君にだって罪はあるんだ。全ての罪は被るけど、君にだってあるんだよ。
そうやって、優しく手を伸ばすから。だから僕は、馬鹿みたいに何度も君の名前を呼ぶんだ。

「周」

だから僕は、この大きな手に、堪らなく安心するんだ。
この手を振り払ってくれれば、もう少し僕も大人になれるのかもしれないのに。

「周」

縋るように動いた指を、振り払われた途端、少しだけ安心した。
ああ、これで全てが終わるんだ。彼も僕も楽になれるんだ。

けれど、彼に抱きしめられた途端、それ以上に安心した。

「俺、いっつも気づくのが遅いんだ。
 お前に対する気持ちに気づくのも、お前がこんなになるまで頑張ってたってことに気づくのも、全部全部、遅くて。
 気づいたときにはもう、なにもかも大変なことになってるんだ。」

「何言ってるんだ、早すぎて困るくらいだよ」

突然、僕の両肩を鷲掴みして彼が無理に目を合わせてくる。
涙で滲んだ瞳が痛いほど綺麗で、目を逸らした。

「俺はお前を傷つけたくない、苦しめたくない。」

嫌な予感がして、急いで彼のシャツを掴む。
彼が困ったように目を伏せる。

「でも、お前が傷ついてでも、お前が苦しんででも俺、お前と一緒に居たいっ思っ……ちゃって」

やめてほしい、やめてほしい、やめてほしい。
僕は馬鹿だけど、伊達に彼に見続けてるわけじゃない。
こんなくだらない嘘くらいすぐに見抜ける。

おそらく彼が涙を流しているのは、罪悪感からだろう。

もう、駄目だ。彼にこんなことさせちゃ。
これ以上こんなに気を遣わせたら駄目だ。

「周」


彼の頬にできた涙の痕をゆっくり指でなぞると、彼がすっと目を閉じた。
唇を近づけそうになって、急いで気づいた。

頬に触れていた指先を、彼の髪へと移動させる。


彼が自分の髪をおそるおそる撫ぜる僕の指を握り締めた。
不思議と、吐き気は襲ってこない。
それどころかさっきから、妙に穏やかな気持ちが蠢いている。

終わりに向かっているからだろうか。

 

「周、」「んー?」

雑巾で忙しく床を拭いている彼の尻に向かってそう呼びかけると、
すぐさま振り向いて、やけに大人びた表情で彼は返答した。

僕はその顔を急いで見なかった振りして、自分の手元を見詰めることだけに集中した。
自分が吐きまくった胃液の匂いが鼻を掠めるものの、そんなものに気を遣ってる場合ではなかった。

「おなか、すいたかも」

小さな声でそういうと彼が急いで立ち上がった。

「ほんとに?」「うん」
「んじゃ、掃除したらすぐ何処か食いに行こう。」

散々吐瀉物を撒き散らしたバケツを、お風呂場を借りてゆっくり洗っていると、
雑巾を洗いに素足で彼が風呂場に入ってきた。

浴槽にたまったお湯を掬おうとした彼に背後に立たれ、少しだけ体が強張った。
骨ばった腕が、目と鼻の先にある。

「バケツ、そんな綺麗にしようとしなくていいって。元から汚れてたし。」

たったひと絞りで、雑巾に吸い込まれた水分はほぼ外に出されたのに、
彼は念入りに何度も雑巾を絞っていた。

「飯、何食べたい? 」「何でも良い。」

普通をなるべく装いながらそう返すと、彼は嬉しそうな声を漏らした。
シャツの袖を肩まで捲り上げた所為で、腕全体が剥き出しだった。早く片づけを済ませてしまおう。

「着替えるだろ? 」「どうしようかな」

振り向いた僕に彼はシャワーを向ける。前髪が瞼に張り付いて一時目が開けられなかった。
彼を叱ろうと、口を開けた途端その口にまた新しいお湯が入り込んできた。

「着替えるだろ? 」彼は口調を変えない。僕は仕方無しに頷いた。

 

彼の貸してくれたポロシャツは、
大分着込んだのかくたびれてはいたが、きちんと手入れがなされていて着心地が良かった。

大きすぎる襟が首にこすれてこそばゆい。
「本当に何でも良いのか?」

彼が何度もそう尋ねるものだから、冗談のつもりで「じゃあ、ラーメン」と答えると
彼は急に「お前、さっき吐いたばっかりだけど大丈夫かよ?」と真顔になった。

途端、愚かな自分の考えを呪い、急いで冗談といって笑ってみせた。
彼の心底安心したような顔にまた苦しくなり、また吐き出しそうになる。

「俺が作ろうか? 
 ここらへんの店のあっさりしたものってサラダとかスープぐらいしかないし。」

彼がそう言って一度履いた靴を脱ごうとしたので、急いで制した。
彼の家で、別れを切り出すのは絶対不可能だ。言えるわけない。

「いや、スープパスタとか雑炊とかあるじゃん。それ食べよ。」
「それくらいだったら作れるし、金もかかるからやっぱり俺が作るよ。」

「最近周と外出てないし、メニュー見たら結構食えるかもしんない。」

彼は一瞬だけ眉を顰めたものの、結局は僕の意見に同意して、
脱ごうとした靴の踵に人差し指を入れた。


がやがやと人の声と姿が五月蝿い行き慣れたファミリーレストランは、
今日は人がやけに少なくて、ドリンクバーの一番近くを二人で陣取ることが出来た。

「何食べる?」

僕か彼のどちらかが、あるいはどちらとも女だったら。今頃もっと上品な場所にでも行けたのに。
僕か彼のどちらかが、あるいはどちらとももっと年をとっていれば。今頃居酒屋にでも行けたのに。

けれど僕等は二人とも男で、二人とも十七歳で。
こんな時間に二人で居ても可笑しくない場所なんて、ファミリーレストランぐらいしかなくて。

しんとした夜はただでさえ狭い僕らの居場所を一層狭くさせる。

僕は豆腐サラダとあさりのスープパスタを注文し、彼はからあげ膳を注文した。

くだらない、差し支えのない話で僕等はその場を濁していたが、
乾いた笑い声が止み、ふとした瞬間に容赦なく襲ってくる沈黙に、耐えられなくなって僕は切り出した。

できれば食事の後が良かったけれど。

「周は、さ、疲れない?」
「何に?」

「ずっと、気、遣ってるじゃん。」
「俺そこまで遣ってないよ?」

ここで、豆腐サラダが運ばれてきて、周は僕より先にトマトを口に運んだ。
豆腐が水っぽくてやっぱり周に作ってもらえばよかったかな、とちらりと思ったが、
外に連れ出した理由を思い出して急いで考え直した。

彼の嘘に安心してるだなんて、やっぱり僕は馬鹿だ。

「なんで、俺が気を遣ってるって思うの? 聡は。」

箸を持つ手が震えた。組んだ指の上に顔を載せた彼が、見透かしたように笑う。
沈黙をずーっと保っていると、見覚えのある顔が湯気の漂ったカップを片手にこちらに寄ってきた。

「明日学校じゃないの? 10時を過ぎたら補導されるよ」
「先週の日曜日が参観日だったから、明日は振り替え休日」

顔も上げずに彼は返す。柊さんはそんな無愛想な従兄弟を無視して同じ言葉を繰り返した。
彼が返事をしないので、代わりに僕が答える。

「あ、明日は振り替え休日なんで大丈夫です。あと、老けて見られるので補導はされません、大丈夫です」
「背が高いもんね。 ごめん、それに嘘だよ。10時以降は補導なんてどうせ口ばかりだ」

「悪い、ちょっとトイレ行って来る」

僕だけを見て周はそう言い、柊さんには目もくれず行ってしまった。
柊さんは苦笑する。

「相変わらず、仲が悪いですね」
「ここまで仲の悪い従兄弟も珍しいんじゃないかな。」

彼はそう言うと、先程まで周が座っていた僕の向かい側に腰を下ろし、
店員さんを呼び止めて箸と皿を持ってくるように頼んだ。

「周の何が嫌なんですか。」「それは周に聞いてくれよ。僕の何が嫌なのか」
「いいえ、嫌うきっかけを作ったのは柊さんです。周は少なくとも昔は、貴方に懐いていた。」

「彼がそう言ったのかい?」「いいえ。忘れたんですか?僕は彼の幼馴染ですよ。」
「相変わらず、君は僕に挑戦的だね。」

店員さんが箸と皿を彼の手元に置いた。
彼のはその箸で彼のからあげ膳を半分に分け、その半分を自分の皿にのせた。

「いいんですか、そんなことして。余計嫌われますよ」「君に?それとも彼に?」
「両方に、です。」

それは怖いな、そう言って彼は皿と箸と、湯気の薄くなったカップを持ち自分の席へと戻っていった。

「何か言われたか?」しばらくして戻ってきた彼が、そう尋ねかけて自分の料理を見詰めた。
「よっぽど嫌われたいんだな、あの人」

重々しく溜息を吐いて、彼は残った半分を口にかっ込んだ。

 

「で、さ、話戻していい?聡」

彼がパスタを半分食べ終えるのを待って、俺は切り出した。
彼の顔が強張ったが、無視して話を続ける。

「なんで俺が気を遣ってるって思うの」

かちゃかちゃと、あさりと皿のぶつかる音を数回立ててから、彼はフォークを置いた。
身長からして見下ろされているはずなのに、彼が小さく見える。
この瞬間が楽しくて、俺は彼と付き合ってるんだろうか。

「なんで僕が吐くのか、不安で、時々うんざりしてるだろ」

思わずカップに伸ばした手が止まった。彼が瞬時にそれを捉える。
ね? とでも言いたげに彼は口元を歪めた。

「ああ、不安だよ。ごくたまに全部終わらせてしまいたい気分になることもある。
 でも俺は、」

「それが無理してるんじゃないの? 今だって気遣ってるでしょ?」

大声で叫びだしたい衝動に駆られた。彼の胸倉を掴んで、そうじゃないんだ!と怒鳴りたい。
違う、違う違う違う。なんでこんな上手く伝わらないんだ。違う、違う違う。

部屋で泣いてしまったのは間違いだったと思う。
言ったことは本音だし、涙だって演技じゃなかった。けれどあの時の俺は少しだけ自分に酔っていた。
彼もそう思ったに違いない。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ俺を見詰める目が冷ややかに尖った。

俺が黙ると、彼はそれで満足したのか何も言わずにパスタを再び口に運んだ。

「聡、」パスタを口に含んだ彼は首だけで返事した。

「例えば、俺とお前が無人島にいたとしよう」
彼のなんでまた、という声は聞こえなかったふりをして話を進めた。

「それで、俺とお前は同じ病気にかかってしまいました。このままでは死んでしまいます。
 するとその病気を治す薬を偶然拾いました。」

話を進めて度に、彼の眉間のしわは濃くなってゆく。

「でもその薬は一人分しかありません。二人が助かることは不可能です。
 さて自分と相手、どちらを助けますか?」

「周にしては珍しいファンタジーなたとえだね。」「いろんな矛盾は無視してくれよ。で、どっちを助ける?」

彼の答えは分かっていた。「周」と答えるに決まってる。
相手が別に俺でなくても彼は絶対自分を助けたりしない。
自分の所為で人が傷つくなんて、ましてや傷つくどころか死ぬだなんて、彼はそんなこと許さない。

「どちらかが薬を飲んで、助けを呼びに行くとかは駄目ですか」「駄目」

彼は紅茶を飲み干してから笑った。

「じゃあどっちも助けない。」

それもなし、と言おうとしたが思いがけない答えの理由が知りたくて、黙っておいた。
彼は続けた。

「だって周、僕が譲って薬渡しても絶対飲まないだろ。かといって周の代わりに自分が生きるくらいなら死んだほうがマシだしね。
 それならもういっそのこと、薬を拾うこと自体が変な話なんだから拾わなかったことにしてどっちも助からないでいいんじゃない」
 
不覚にも涙腺が刺激された。予想以上だ。予想以上に彼は優しくて予想以上に思いやりがある。


「なんでそんな質問したの?」

暫くしてから質問してきた彼の顔を直視できず、黙って追加で注文した餃子を齧った。
彼はそんな俺を見て、ほうっと息を吐き出してからまたフォークにパスタを絡めた。

どぶり。沈黙はまた俺達を包む。
ぴりりと静かに、けれども大きくその沈黙に穴を開けたのは彼だった。

「周、」「んー?」
「別れよっか」「俺がそう言ったら、聡さっき嫌だって言ったじゃん。」

それで彼は黙り込むかと思ったが、意外にも強気な口調で

「気が変わった。いいじゃん。周も別れたかったんでしょ。」

腹が立って、手をあげそうになったが人も見ているので足を踏んだ。
彼が痛そうに顔をしかめる。唇を噛み締めると、鉄の味がした。

「俺も気が変わった。」

俺がそう言うと彼は、ああもう。とうんざりしたように机に顔を伏せた。
暫くして鼻水を啜る音が聞こえ、肩まで震えだしたので急いでトイレに連れ出した。

「そんなに別れたいか」「うん」

泣きたいのはこっちだよ。泣くほど別れたいだなんて。
トイレのドアをノックされたので、仕方なしに二人で出ると、
相手は最悪なことに柊で、精一杯睨みつけると彼は悪びれた様子など一切見せずに

「二人でトイレ? 仲良しだね」とトイレから出る俺たちの後に続いた。

彼に罵声を浴びせようと口を開いたそのとき、彼が先に口を開いた。
見たこともない顔つきで、まるで責めるように尋ねる。

「気は済みましたか」「うん、君たちのことは分かった。」

柊は優しく微笑んで、俺たちの伝票を取った。
彼は形ばかりの礼を述べて、外へと出て行った。急いで後を追いかける。

「聡っ!」

風が強くて、前髪が目にかかる。
帰ったら前髪を切ろうと頭の隅っこで思いながら彼を追いかけた。

全速力で彼は夜の道路を駆け抜ける。
身体を押し返さんばかりの強い風なのに、彼はまるで風に乗っているように軽やかに舞う。

「聡っ!」

ようやく捕まえたその腕は暖かくて、自分の手が冷えていたことに気づかされた。
彼が振り向く。見下ろされて身長差を急に実感した。
彼が咳き込む。気づいて急いで手を離した。寂しそうに微笑まれる。

「別れよう。やっぱり」
「分かった」


おはよう、と笑って僕の肩を叩く彼は痛いほどいつも通りだった。
俺が顔をあげるまで。

「え、どう、し、たのっ」

喘ぐようにそういってから彼は隣の席の飯田の背中を強く叩いた。
聡より先に俺に会い、笑い転げていた飯田は先ほどようやく静かになったところなのに、
再び彼につられて馬鹿笑いをはじめた。

教室が一気に騒がしくなり、二人の笑いにつられた同級生たちが笑みを零す。
腹が立って、一人席を立ちトイレに逃げ込んだ。

鏡の中の自分と目が合う、確かに短すぎだ。

溜息を一人で零し「刺激を与えると髪は伸びが早くなる」といった情報を頼りに
一人鏡を覗き込みながら前髪を引っ張っていると、彼がやってきて俺を見てまた笑った。

「なんでまたそんな短くしたの」

指が震えた。閉じた口の中で歯を食いしばる。また、鉄の味が滲んだ。

「泣きながら切ったから、あんまり見えなくてさ」
「別に昨日切らなくても良かったんじゃないの、」

さらりと交わされ、毒づいた感情が膨らむ。
何度嫌味を繰り返しても、なかなか萎んでくれない。
何度皮肉を繰り返しても、彼は受け流す。

膨らんだ気持ちを少しでも縮めたくて、彼を動揺させたくて
何度も何度もそれを繰り返した。いつからか、彼との会話に棘を含まない日はなくなった。

「周、今日飯田ん家に皆泊まるって。周どうする?」
「泊まる。」俺は彼の質問にそれだけ返して少し前を歩く飯田を呼び止めた。

「飯食ってかね?」

 

「何食いたい」
ようやく眉毛にかかってきた人の前髪を愉快そうに触れてから、
クラスが離れて以来ろくに会話をしていなかった高橋が尋ねた。

「唐揚げ膳」と俺が答え、飯田がボタンを押す。

「聡は?」「聡はスープパスタに決まってんだろ。」
さすがに彼は少しだけ傷ついた顔をする。俺はそれを見ない振りした。

 

「周は小さい方が好きだよな」「ああ、うん、無いに等しいくらいが良い」
「マニアックだな、小学生とか好きなわけ?」

いや、そうじゃない。と雑誌を捲りながら会話する高橋を咎め、自分の好みを力説してみせると、
聡と話していた飯田が苦笑する。

「そこまで言うならお前、男と付き合えば」

彼の表情が瞬間的に強張る。
高橋が探るような目つきで彼を一瞬見詰めているのを目の端で捉えた。

空気を凍らせないために俺は急いで返事を返した。

「いいかも。聡、俺と付き合う?」

ようやく顔の筋肉をほぐした彼の顔がまた硬くなる、かと思えば
彼はにこりと微笑み「僕そっちの気ないから。男同士とか絶対無理、吐く」

「うそ、俺聡そっちの気あるかと思ってた。」
「あ、だから周、僕のこと時々厭らしい目で見るんだ」

なんだよそれ、と乾いた俺の笑い声が部屋中に響く。
はは、と彼の乾いた声が途中で加わる。飯田が大きく溜息をついた。

「お前ら喧嘩すんなら外でしろ。迷惑。それから喧嘩のついでにコンビニ行ってきて」

 

「気遣わせちゃったね、飯田に」

誰のかわからない学校指定靴を足に引っ掛けながら、彼が呟いた。
自分の靴を探し当てながら、頷く。

初秋の夜は、星がやたら瞬いていて明るすぎる空が少し不気味だった。
玄関の戸を握り締めたまま上を向いた彼は立ち止まる。

「うわ、不気味」


飯田の財布を預かってきたこともあり、俺と彼は好き勝手に自分の好きな商品をカゴに入れた。
勢いづいて酒に手を伸ばすものの自分達の格好を思い出してすぐ戻した。

「ねえ、周」「んー」
「なんでずっとにやついてんの」

急いで口元を覆う。
先程から気づいていてその度に神経を張り巡らせていたのに、つい気を抜くと口元が緩んでしまう。

「何が嬉しいの。」「別に」

そんなやりとりを飽きるほど繰り返しながらようやく買い物を終わらせた。
コンビニの利かせすぎた冷房に肌が慣れていて、虫の声が五月蝿い外は蒸し暑かった。

星はやっぱり沢山瞬いていて青白い空はやっぱり何処か不気味だった。
彼が呟く。

「うわあ、やっぱり不気味」

自分でも呆れるほど胸が躍った。


今朝、異臭がして目を覚ますと、三人の友人はピザを食べていた。
全員で一枚を食べれば良いものを、一人一枚ピザを両手に抱えている。
おまけに、全員同じ味だった。

「三枚頼むなら、三種類のピザ頼めよ」
「この味が一番旨いんだよ」

部屋中にたちこめるチーズの匂いに起きて早々不愉快になった。
腹の音が鳴っているものの、チーズ嫌いの俺がピザを口に出来るわけがなく、
仕方無しに外に出ることにした。

鼻腔にまだチーズの匂いがまとわりついていて気持ちが悪い。
いくら秋に入ったとはいえ、真昼間はやはりむし暑くて汗が吹き出てくる。
皆、何時まで飯田ん家に居るつもりなんだろう。と疑問に思いながら
冷房の利きすぎたコンビニを目指していると後ろから肩を叩かれた。

「奇遇だね、何処に行くの?」

わざとらしく舌を打って彼の言葉を無視すると、柊は少しだけ足の速度を速めた。

「別れたんだって?」さも可笑しそうに彼が尋ねる。
無視を続けていたものの、彼は俺の表情を見逃さなかったらしく

「聡君が教えてくれたんだよ」といってまた笑った。

我慢ならない。けれど此処で俺が怒ったとしても彼は余計喜ぶだけだ。
それが分かってるのに、つい零れた。

「なんで雄介はそんなに俺を嫌うんだ?」
「おや、懐かしい呼び名だね。」くすくす笑いがおさまらない様子の彼の声は震えていた。

「僕は嫌いじゃないよ、だからこんなに構うんだ」

頭上に置かれた大きな手に自分でも気持ち悪いほど安心した。

「周こそ、なんでそんなに俺を嫌うの?」

勢いづいて、思わず彼の服の裾を握り締めた。
眼鏡の奥の彼の目が大きく開かれる。
違う、と乾いた口の中で呟いて、裾から手を離した。汗ばんだ手が風にさらされて心地良い。

彼が首を少しだけ傾ける。泣き出してしまいそうになって、顔を伏せた。
彼がまた俺の頭に手を置いた。

「帰る」

いつものように精一杯棘を含めてそう言い捨てると、彼が笑みを零した。

腹の音が凄まじい音を立てているのを無視して、目と鼻の先のコンビニを横切った。
スーパーまでは少し遠いが、コンビニでまた柊に会うことを思えば我慢できた。

そう思って、我慢して古ぼけた小さな「スーパー・川添」まで全速力で走ってきたのに、
惣菜のコーナーで彼と再会した。

彼が可笑しそうに笑う。つられないよう奥歯に力を入れた。

「また会っちゃったね、昼ごはんはもう済ませた?」

彼に微笑まれ、返事に詰まっていると彼の笑みはさらに広がり
「何か奢ってあげよう。何が食べたい?」と優しく囁いた。

懐かしい甘い声の響きに鳥肌が立った。
気兼ねすることなく柊の腕にかかった緑色のカゴに若鶏の唐揚げや巻き寿司を放り込む。

買ってもらった商品を受け取り、礼を言ってその場を急いで去った。
早く飯田家に戻りたかった。彼の顔が見たかった。

「こんにちは」

俺が玄関で靴を脱いでいると、飯田の母親が洗濯籠を片手に襖を開けた。
俺の顔を見て「あら」と声を掛ける。

昨日、挨拶したはずだけどな、とちらりと思いながら「お邪魔します」と声を掛けると
「あらあらついさっき出かけちゃったのよ。」と返された。

息子とその友人が何処へ行ったか分からないから、待っておいてくれ。と言われ部屋で待っていると
突然、部屋の押入れの戸が開いて高橋が勢いよく飛び出てた。

驚いて柊に買ってもらった数々のお惣菜が袋から零れる。
部屋に入ってすぐ食べようと思い、ラップをはがしていた串カツがひとつ落ちた。

高橋がすかさずそれを奪い、三秒!と叫んで頬張った。
俺は高橋の隣に腰掛け、二人の間にお惣菜を並べて箸を置いた。

「わざわざ飯田母に協力してもらって隠れたのか」
「うん、聡達が外出てからすぐだから、んっと、25分位ずーっと押入れで待機してた。」

「暇だな、」「押入れ暑いしね」

確かにそういう彼の額には前髪がぴったりくっついていた。
彼が携帯を取り出し数十秒弄ってから、床に置いた。綺麗だけれどもビブラートがかかりすぎて少し五月蝿い声が部屋中に響く。
音楽は良い。ぽっかりと空いた沈黙を埋めてくれる。


「聡がさ、さっきいきなり泣いたんだよね」
「泣いたって言っても、振り向いたときに目元がちょっと濡れてただけなんだけど。」

「本人はすっごい誤魔化してて、それがあまりにも痛々しいから飯田が外に連れ出したんだよね」

彼の声は静かで、聞き取りやすいほど間を空けて話すのに俺は相槌さえ打てなかった。
高橋は俺が楽しみにしていたマーボーカルビ丼を黙々と頬張る。

意を決して踏み切った。

「で、お前は俺担当、というわけね」

おそらくこいつは俺が少しでも下手なことを言えば、気づいてしまうだろう。
いや、もしかしたらもう既に気づいているのかもしれない。

「そういうこと。 聡と何があったの?」
「高橋は何があったと思う?」

自分の話す機会をなるべく減らす。高橋が驚いたように顔をあげた。

「そんな風に切り返されるとは思ってませんでしたね」「そうですか」

沈黙を埋めてくれていた音楽が止む。彼は携帯をポケットにねじこんだ。
掌を開いたり閉じたりしながら、彼は呟く。

「分かんないな、俺には。」

その一言が全てを物語っていた。俺は頷く。

「だよな。んなこと知るかって話だよな」「全くだよ、どうせ喧嘩でしょ?」
「ん、でも泣いたのは俺と関係ないと思う。喧嘩ごときで泣くような優しい人間じゃないよ、聡は。」

「確かにね」高橋が安心したように笑う。乾いた二人の笑い声が部屋を満たした。


惣菜をほぼ食い尽くした頃、妙に華やいだ声がして戸が開いた。

「すぐ帰るね、あ、高橋君たちも居たんだ」
「いいって、ゆっくりしてろよ。周そこどいて、あ、はい灯、」

飯田がそう言って彼女に座布団をさしだす。
向井灯は左手で髪をかきあげてから、それ両手で受け取った。

暫くしてから聡と共に泊りこが入ってきた。聡は両手に買い物袋をさげている。
女子が来たことで飯田は盛り上がったが、
深夜まで起きていたのに今朝早くに目覚めた高橋と聡は少し疲れているように見えた。
昼まで寝ていた俺も、男女混合だからこそ出来あがる雰囲気は嫌いじゃなかったが、今日は柊のこともあったせいで気を回す元気は無かった。
できれば男子だけでのびのびとやっていたかった。

「ごめんね、何か。急にお邪魔しちゃって」

そんな俺たちの様子を気遣ってか、泊が申し訳なさそうに呟いた。
高橋がすかさず「全然、」と言って愛想笑いを浮かべる。
向井も誤る様子を見せたが、飯田に声を掛けられて機会を失ってしまった。
別に誤ってもらいたくはない。彼女たちとの会話は楽しい。
ただ、出来れば話すのは今度の機会にして欲しい。

「灯、この前も告白されてただろ」飯田が怒ったように言う。
彼女は首と手を大きく振って否定した。

今飯田が熱をあげている向井は、確かに彼が本人の居ない場所で散々叫ぶように美人だと思う。
目はそこまで大きくないが、鼻がすっと通っていて肌も綺麗で唇の赤みが官能的だ。
よく勘違いされて注意を受ける、色素の薄い柔らかそうな髪の毛に触れてみたいと思ったこともある。

「ごめんね、本当」会話の合間に泊は言う。今度こそは、と思ったのか向井も若干早い口調で謝罪した。
けれど誤るものの彼女達は一向に帰る気配すら見せず、そろそろ夕方も近かったので俺は立ち上がった。
高橋と聡が同時に顔を上げる。

「昨日からずっと居るし、そろそろお暇させていただきます」
「ん、僕もそうしよう」「俺も」

声を弾ませて友人二人も立ち上がる。女子二人組みも立ち上がった。

「あたしたちも帰ろっか。」

飯田が一生懸命止める中、俺たちは飯田の両親に挨拶をして靴を履いた。
のろのろと五人で歩き、じゃあ、と言ってそれぞれが自分達の家の方向へ散った。

久しぶりに彼と二人きりになる。足音だけが響いていた。

 


「今日、泣いたらしいな」「やっぱり高橋も気づいてたんだ」

周は僕になんで?とは訊かない。
訊いてくれた方が話すきっかけが出来るとわかっている今もそれは変わらなかった。
僕から言い出すのをじっと待っている。

このまま黙っていれば、彼はきっと他の話題を見つけてくれるだろうし、もしそうでなかったとしても僕が見つける。
けれども彼にそんなことができる筈がなく、僕は声を喉の奥から絞りだした。

「ごめん、周。」

足がすくむ。言った後のことを考えようとしても考えがうまくまとまらない。
とにかく、今胸に燻っているこの思いを伝えたくて仕方が無い。
ぐっと地面を踏みしめてから、再び僕は声を絞り出した。

「やっぱり好きだ」

彼の足が止まる。ゆっくりとこちらを見据えて笑った。

「そう言ってもらえるのをすげえ待ってた」

突然激しく後悔した。またこの人を傷つけてしまうんだと気づいて、泣きそうになった。
けれど、「ごめん、今の嘘」なんて言えるわけなくて。
「別れよう」と僕から言い出すことが一生出来なくなってしまった。

彼のためを思って手放したのに、我慢ならなくて彼を求めるだなんて。
彼は僕を求めるような真似しなかったのに。

求めて求めて散々求めて、彼がこちらに来よう としたら拒むくせに。
「ごめんなさい」と小声で誤ってから彼を抱きしめた。

「誤んな」と厳しい口調で一言呟いてから彼は僕の背中に腕をまわす。
けれども彼は僕が吐き気を感じる前に、彼の体温が僕に移る前にするりと離れた。

その日僕はベッドで夜通し泣いた。


「おはよう」

そう言って笑う彼は柔らかい。声も表情も仕草も全て全て。
短い前髪が、近頃強くなった風に流されて、綺麗な形の眉が露になる。

「貸し本屋行かない?」

来て早々放課後の話をする彼が好きだ。今日と明日はテストだというのに。
自分の成績を考えれば漫画なぞを貸りている場合ではなかったが、彼の提案に二つ文字で即答した。

昼、防音対策のためか薄い灰色のマットが敷かれている床に直に腰掛、
周と二人で食事をとっていると、彼の唇の下に切り傷が見えた。

どうしたの?と尋ねて僕が自分の顎を押さえると、
彼は頬張っていた鮭おにぎりを飲み込んでから「髭剃り中に切った」と答えた。

落ち着かない気持ちになって弁当の中身を口に押し込む。
寂しそうに笑った彼と目が合い、その目が「また吐くぞ」と訴えているような気がして手を止めた。

やっぱり無理だ。でも好きだ。大好きだ。
付き合っていても落ち着かない。別れても落ち着かない。僕の我侭に彼は振り回されている。
求められた瞬間拒まれるなんて僕には耐えられない。

彼が僕の腕を掴んだ。やけに力強くて痛みすら感じる。

「なんでそんな不安そうなの」

言えない、振り回せない。不安だなんて口に出来ない。
彼だって僕に不安だなんて言われたくないに決まってる。彼が言わないのに僕が言えるわけない。

「聡」

背骨が鈍い音を立てて床と衝突した。
痙攣したかのように小刻みに震えながらも、力強く彼は僕を抱き締める。

「頼むからもう何も考えんな」

さっと抱きしめてさっと離れた。

 

「菊川君」

甘ったるい声で名前を呼ばれた。
最近、向井さんがやたら馴れ馴れしい。そのせいで飯田から睨まれてしまう。
本当に睨む相手は周だろうに。

「周だったら図書室」「そっか、ありがと」

わざとらしく彼女は長い髪を揺らす。
絶対染めているに決まっているのに、本人は何度注意されても生まれつきです、と言い張る自慢の髪の毛。
馬鹿だ。それに騙されている教師や同級生も。残念なことに僕の大事な恋人も信じてきってしまっているらしいし。

何故彼女の言葉を信じられるのだろう。
もし彼女の演技がうまいのだとしても、泊さんの表情を見れば一目瞭然だ。
彼女は親友が嘘をつくとき困ったように笑っている。

「あのさ、菊川君」
「周は今、川端康成にハマってるから『伊豆の踊り子』の話でも持ちかければ? 早く行きなよ」

「そうじゃなくて。それにあたし川端康成は『伊豆の踊り子』より『古都』の方が好きなの」

彼女が本を読むとは意外で、その話に少し興味はあったが流すことにした。

「今週の土曜日、ふたりでファミレスに居てよ。来るから」
「なんで?」

彼女の思惑はいやというほど分かっていたがあえて尋ねる。
彼女は隠しもせずに溜息を落とす。

「菊川君さあ、偶然か知らないけど、時枝君の周りに集まる女子嫌ってたら色々誤解されるよ。」
「嫌うなとは言わないけど、もうちょっと隠したら?」

厳しい口調ながらも、時枝君という単語にだけは甘さがたっぷり含まれていて気持ち悪くなった。

「りこ連れてくるから二人で、ね。それ以上は呼ばないで欲しいなあ」

強請るように彼女は上目遣いで僕を見詰めて、図書室へと走っていった。
勿論あんな一方的にこじつけられた約束を守るわけがなく、土曜日僕と周は飯田の家に居た。

その夜彼女から自宅に電話がかかってきて怒鳴られる。

「ごめんごめんすっかり忘れてた」「もう良い。」

怒鳴るだけ怒鳴った後彼女は電話を切った。
苦笑して後ろで漫画を読みふける彼と目を合わせる。

「可哀想に、会ってやれよ」

そういう彼の額を数発叩いて唇を重ねた。
込み上げてくる夕食を飲み込む。彼が微笑んだ。勿論寂しそうに。

「周、なんで僕が吐くのか僕達話し合うべきだと思う」
「僕はなんで吐くのか正直に話すから、周は僕が吐くことをどう思っているのか教えて欲しい」

わかった、と彼の唇は動くものの声は発されなかった。
僕は頷いて、同性に恋愛感情を抱く自分や彼が気持ち悪いんだということを話した。
好きだけど気持ち悪い。気持ち悪いけど好き。

彼は泣いた。泣き喚いた。
母が心配して部屋を覗きに来るほど大声で泣いた。

「なんで付き合ったんだよ。なんで黙ってたんだよ」

くそっ、と吐き捨てて彼は一生懸命涙を拭った。
真っ赤な瞳で僕を睨みつけて「こんな話、したところで俺は別れねえよ」

うんと頷いて、僕は俯いた。目に力を入れるとだらだらと鼻水が流れる。
僕が鼻を啜ったのと彼が話し始めたのは同時だった。

「まさかって思ってたことが……予想が当たったのが悔しい。」

彼がゆっくり、ほつりほつりと言葉を紡いでいく。
僕は近くにあったクッションを抱えながら、相槌も打たずにそれを訊いた。

「正直言って俺は異性を好きになったことがない。いいなと思うのはいつも男だ。
 柊と話せなくなった原因を作ったのも俺だ。あいつは悪くない。
 俺があいつに告白して、断られて、一方的に避けてただけだ。俺が堂々と嫌えるようにあいつは嫌な人間を演じてくれてたんだ。」

でも、と言いそうになった僕を遮って彼は続ける。

「周りが疑わないように、「いつまでも子供と付き合っていられないよ、うんざりだ」って、あいつ公言し始めて。
 俺も、それを知ってからあいつが俺を避けるって分かっててあいつに話しかけて……。あいつを最低な人間に仕立てて」

悔しかった。恥ずかしかった。
馬鹿みたいだ、彼らの演技を信じ込んで、柊さんにあんな態度取って……。
小さい小さい小さい。僕は本当に小さい。何も出来ない。

震える肩を抱きしめるどころか、触れることすらできない。

「しゅ、周」「ん」

互いの声が震えていることに互いに気づかないふりをした。

「まだ、柊さんのこと好きなの」「お前が居るのにそれはねえよ」

本当に?本当に彼を好きな気持ちなんて微塵もないの? と続けるつもりで尋ねたけれど、彼の口調でその必要はなくなった。
彼が僕の手を握った。そんなことないのに、久々に触れられた気がして緊張した。

うまく力の入らない手で、精一杯それを握り返して外へ出た。
先日、気持ち悪いくらい空中に広がっていた星屑はまばらになっていて見惚れた。

「周」

「何?」「お誕生日おめでとう」

お前がそれを言うなよ、と彼は泣きそうな顔をして笑った。
彼が18歳になった。只でさえ狭い僕らの居場所は一層狭くなった。

「俺さ、「結婚できるね」って言われて笑える自信が無い」
「結婚できるね」「……だからっ、お前が言うなってば」

そう言って彼は、笑った。もう涙なんて流したくなかった。お互いに。


翌日、僕の予想通り向井さんは周にプレゼントを手渡した。
「ごめんね、後になっちゃって。
 当日は予定があるだろうから前日に渡そうと思ってたんだけど。ごめんね?」

全然、と言って手を振る彼は、妬いてしまうほど美しかった。
できるものなら今すぐ彼女と代わりたい。そして一生彼女のままで彼の傍にいたい。
けれど彼女は彼に抱きしめられたり、彼と唇を重ねたりすることは出来ない。もしかしたら一生。
その代わり、こんな苦しい思いをしないで済むけれど。

「ありがとう」
「うん、気に入ってもらえるか分からないけど。あ、開けていいよ」

彼がかさかさと音を立てて丁寧に包装紙を剥いでいく。
こんな大事に扱われるなら包装紙も本望だろう。

すっと箱をあけると重そうな懐中時計が現れた。彼が目を丸くする。
アンティークで高価そうなそれは、細やかなデザインが美しかったが確かに女子高生が好きな男子にあげるような品物じゃない。

「ご、ごめん。時枝君のイメージに合ってたから買ったんだけど、そうだよね、使わないよね、腕時計あるのに」

取り繕うように自慢の髪の毛を何度も耳にかけながら、彼女は見苦しい笑顔を見せる。
いつも気持ち悪いほど完璧な笑顔より、ずいぶんと人間味があった。

「いや、気に入った。ありがとう」

彼が笑う。その目にはどこか暗い影が潜んでいた。

「葉月、灯って周と付き合ってんの?」
僕の後ろで、泣きそうな顔をしながら飯田が高橋に囁いている。
飯田は、宥めるように「いや、付き合ってないはず」と呟いて同意を求めるかのように僕を見た。
なんだか見透かされているようで気まずかった。

「菊川君、ちょっといい?」

遠慮気味に僕の肩を叩いて泊さんが廊下を指差した。
頷いて、廊下で一度立ち止まると彼女はまだ先へと歩いていった。急いで後を追う。
どこから取り出したのか、彼女は生徒会室の鍵をあけて僕が入ったのを確認してぴしゃりと戸を閉じた。

「どうしたの?」

ロッカーから紙袋を出した時点で分かりきっていたが、あえて尋ねてみる。
以前、高橋の家に向かいさんと彼女が来たとき、一緒にコンビニに行き、相談を受けたのだ。
彼女は俯いた。

「渡してほしいの。 時枝君に。」

時、枝、君と一文字一文字区切って丁寧に発音する。
まるでそれが乱暴に扱うと壊れてしまう硝子のように丁寧に丁寧に。

彼の名前だけに限らず、彼女はどんな人の名前でも宝物のように扱う。
時枝君 にだけ甘い余韻が含まれているが。

「自分で渡さないの?」「灯に知られたら困るもん。それに、時枝君だって急に渡されたら取り繕う暇がなくて焦っちゃうだろうし」
「周はそんな人じゃない」

こんなこと言う場面じゃないのに、愚かな僕は分かっててもついいってしまう。
泊さんは深く謝罪した。急いで首を振る。

「灯との関係も壊したくないし、時枝君とも普通にしていたいの。
 そんな覚悟で好きになるなって話なんだけどね、 どうしても……諦め切れなくて」

今、目の前の彼女の想い人の恋人が僕だと知ったら、向井さんはどんな反応をするのだろう。
相談に乗っていた、彼女の手助けをしていたこの僕が彼の恋人。
そう言ってしまいたい衝動に駆られた。教えてあげたい。穏やかな彼女が憤慨する姿を見てみたい。

けれども、さすがに良心が痛んで実行に移すことは出来なかった。

「僕で良いの?」「渡してくれるの?」「うん」

この人は優しいけれど、とても卑怯だ。


明け方に、飯田から電話が来た。携帯ならまだしも家の電話にだ。不謹慎極まりない。
悪態をつきながら受話器を僕に渡す父から、悪態をつきながらそれを受け取って電話に出ると
癪に障るハイテンションな声が耳を貫いた。

「聡、腹減ってる?」「減るかよ、こんな時間に」

それだけ言って電話を切ると、彼は家にまでやって来た。
失礼極まりない。ご近所さんにも迷惑だ。

「行くぞ」

彼はそれだけ言って、寝巻きの僕の腕を引っ張って全速力で駆けた。
何がしたいんだ。
腹を立てながらも何だか楽しそうなことが起こりそうな予感がして、少しだけ、本当に少しだけ心が躍った。

引き摺られるようにして、飯田の部屋に連れてこられた僕を見て

「お、最後の犠牲者が」

目をしぱしぱさせながら、飯田の服を着た周が僕に軽く手を振った。
彼の横に立つ高橋は、いつもと全く変わらない様子で僕に困ったような顔で笑いかけた。

その笑みは「連れてこられちゃってるよ、かわいそうに」とも「見苦しい格好だな」ともとれて、
なんだか恥ずかしくなって、寝癖だらけの髪を押さえる。

「ワックスはそこ、服はそこ、トイレは突き当たり。好きに使って」

飯田は早口でそう告げて、急がしそうに階段を駆け下りていった。
まだ睡眠の足りない僕は、もう高橋の笑みなんか気にならなくなってベッドに飛び込んだ。

「何がしたいのあの人」

目を閉じたまま尋ねると高橋が答えてくれた。
どうやらアイツはバーベキューをしたいらしい。朝にするものじゃないだろ。

「向井とか泊も誘うんだって」

意識を遠のかせながら会話を続けていると足元に鈍い振動があった。
薄目を開けるとそこに彼が体を預けていた。途端に目が覚めて心拍数が上がる。
しかし、それは一瞬ですぐさま睡魔に引き込まれる。

「高橋はなんでそんな余裕なの」「俺はプライド高いからね」

溶け込むように、闇に落ちた。

 


「周は無いに等しいくらいのが好きなんだって」

飯田が人を指差しながら向井に小声で話しかける。
しかし、向井は俺の趣味より異性にそんな話を持ちかける飯田の方が受け付けなかったらしく
わざとかと思うほど眉を顰めて話を聞いていた。

「朝から肉は重いよねえ」

とキャベツをもしもし頬張りながら泊が聡に話しかける。
二人が作り出す親密な空気が癪に障って、元から少なかったタレが切れたのを良いことに聡を連れ出した。

だいぶ人気のなくなったところで思い切って手を繋ぐ。
ぐっと力強く握り返されて思わず彼を見詰めると、彼が照れくさそうに笑った。
拒絶されなかったことに深く安心している自分が居て悔しくなる。

彼は言った。同性を恋愛対象として見ている俺が、自分が、気持ち悪いと。
いくつか想像していた原因のうちの一番最悪な、一番避けたいパターンだった。


「ねえ周、恋人居たことある?」

あえて、恋人という表現をする彼の顔は少しだけ強張っていた。緊張してる。

「お前しかいないな」「親には言ってる?」
「……お前が『彼女』だとしても言わねえよ。」

俺の声が厳しすぎた所為か、彼の顔は一層強張る。
すっと繋いでいた手を離して彼は俺と向き合った。

「違う、そういう意味で言ったんじゃない」「……どうした?」

彼の表情が今にも泣き出しそうに見えて思わずそう声を掛けた。
聡は静かに首を振って

「今から僕がする提案は、多分人としてやっちゃまずいことだと思う」

構わない。 俺が一言そう言うと彼は息を深く吐いてから告げた。


「周、向井さんと付き合わない?」

言葉を飲み込んで理解するのにそこまで時間はかからなかった。

「で、聡は泊と付き合う、ってか?」「よくお分かりで」

彼がにこりと笑う。

「それって向井と泊にかなり失礼だよな?親孝行と世間のために利用するわけだろ?」
「そうだね。だから、提案してみただけ、実行に移すかどうかは周次第。」


スーパーに着いて買い物を済ませても俺は答えを出せなかった。
答えを出したのは飯田家の玄関の前にまで来たときだった。

「彼氏と彼女を両方持つ場合、それは浮気に」「入るだろうね。 良いって言ってみただけだから」

軽く笑いながら彼が僕の肩を叩く。意を決した。

「飯田に怒られたらお前の所為だぞ」「承諾するなんて、見損なったよ。」

聡と俺はそういって手を握り合った。
彼と居れるのなら、世界から疎外されないのなら、親が喜ぶのなら、なんだって出来る。

二度と、この手をはなす気なんてない。
常識だって、道徳だって、堂々と踏み破る勇気はなかったけれど、
こっそりそんなものは捨てていた。


「向井」

昼頃になって、満腹そうに腹を擦っている彼女の腕を強引にとった。

「どうしたの? ……時枝君」

ずっと掴んでいる柔らかい腕の感触に鳥肌が立ちっぱなしだ。
まじで男しか受け付けられないのかな、俺。

違う違う違う。
さらさらな髪の毛から漂う甘い匂いも、長すぎる睫も。整った綺麗な爪も。
全部違う。

でも、これで俺達は大丈夫だ。
俺と聡が秘密にしてれば親も向井も泊も、誰も傷つかない。
俺も彼も傷つかない。

彼女がその気ならこのまま結婚だってするつもりだ。

「急に連れ出してごめん」

さり気無さを装ったつもりだったが、どうも乱暴な仕草で彼女の腕を投げ出してしまった。
スカートの裾を少しだけ気にしてから彼女は完璧な笑顔を浮かべて、

「ううん、全然。吃驚はしたけど……どうかしたの?」
「いや、あのさ」

なんて言って照れたフリをする自分が気持ち悪い。

「良かったら俺と付き合ってください」
「ごめんなさい」

吃驚した。とても。
そして自惚れていた自分がすごく恥ずかしくなった。

例えるならとんでもない大きな氷をアイスピックでかち割ったような、そんな感じ。
とにかくもう驚いた。恥ずかしかった。そんなことないのにプライドをぐしゃぐしゃにされた気分。

彼女が俺の告白を承諾することを前提として彼と話を進めていた。

“俺と向井が付き合って、落ち込んでいる泊を聡が慰めて付き合う”

馬鹿か俺は。

「そっか、ごめん」彼女の顔が見れなくて、早口でそう告げた。この場から一刻も早く去りたい。
「ほら、その程度じゃない」「え?」

いつの間にか彼女の目元には涙が浮かんでいて、憎たらしいものを見るかのように俺を見詰めていた。

「あたしが好きなら、もっと……ごめん。違うの、こんなこと言いたいんじゃない。
 好きなんだよ、あたしも。時枝君のこと、好き。」

「でも違う。嬉しいの、今とっても嬉しいの。でも時枝君があたしのこと本気で好きなのか疑っちゃうの。
 し、し失礼だよねごめんね。でも何か違うの。自惚れた馬鹿げた質問で悪いんだけど、菊川君以上にあたしを好き?」

なんでそこで聡が出てくるんだよ。

急いで取り繕うようにそう呟くと彼女は無言で俺を見詰める。
ああ、駄目だ、逸らせない。本気だ。逸らしたら失礼だ。

もう十分失礼なことをしているのに、そう思った。
だから「話を逸らす」ことはしなかった。嘘をついた。

「聡のことはそりゃ好きだけど、でも向井に対する気持ちと聡に対する気持ちは違うよ」
「も、勿論そうなんだけど、時枝君はホモじゃないって分かってるんだけど、
 でもあたしと菊川君って言ったら菊川君を選ばれそうで、自信が無くて、こんな気持ちじゃ時枝君と付き合えない」

走り出したい。
今すぐ飯田家の庭に戻って彼の手を握って、逃げ出したい。

うっかり視界が揺らぎ始めて急いで目を押さえた。彼女が不審そうに眉を顰める。

「そうだね。」

それだけ言って背を向けると、向井に力強く服の裾を掴まれた。

「ま、待ってよ。意味分かんないよ。時枝君、可笑しいよ」
「だよね。ごめん」

彼女に涙を見られた途端、全てを悟られたような気がした。
そんなこと絶対ないのに彼女が全てを見透かしているような気がして、叫んだ。

「俺は聡が好きだよ。」
「それは恋愛対象として?」

彼女のあまりにも早い切り替えしに驚きつつもそれを隠して頷いた。

「じゃなきゃわざわざ口にしないだろ。」「それもそうだね」

ああ、やっと納得できた。 と彼女は息を吐くと同時にそう言った。

「なんで菊川君が好きなのに、あたしに告白したの?」

見透かしてるくせに、なんでそんなことを言うんだ。この人は。
後から思えば簡単に分かる彼女の困惑顔が、演技に見えた。

「世間から外れないように。」

俺のその一言で彼女は黙り込んだ。涙を数滴足元に落として俺に背を向ける。
堪らなくなって俺のほうから先にその場を離れた。

飯田家の近くの自販機の前で、聡と泊が手を繋いでいた。
かっとなってその二つの手首を急いで引き離す。泊から期待に満ちた目を俺に向けられた。

彼女を一睨みして、聡の手首を強く引っ張る。
何も言わずに聡はついてきてくれた。途方に暮れた様子の泊が一瞬だけ視界に入った。

「ごめん、聡」「失敗しちゃった?」
「それだけじゃない……向井にバラした。ごめん」

彼の表情が硬くなる。俺を捕らえる眼差しがきつくなった。

「それは向井さんがそう言う様に仕向けて、周は思わず言っちゃったの?」
「違う」


嫌な沈黙。


「どうすんの」 聡が叫んだ。

「これからどうするの、僕達。何のために向井さんと泊さん利用したんだよ
 学校中で広まって、親の耳にまで届いて……そんなこと考えなかったの!?

 それに僕は、男が好きなんじゃない。周が好きなんだ。」

 

その場で飯田に電話をして、俺達はそのまま帰ることにした。
聡は泣きながら「これで余計怪しまれるんだろうね。」と皮肉を言ったが、戻る気はないらしかった。


噂は思っていたより遅く広まった。
ゆっくりと、じわじわと。けれども確実に。

二人で居ると冷やかされることが段々増えてきて、
「どっちが上なの?」なんていう下品な質問をされるようになってきて、
友人達がよそよそしくなった。

飯田と高橋はある程度予想していたのであろうこともあって、普段通りに接してくれたが、
飯田はふとした瞬間に俺が彼の背後にまわったり、肩に軽く触れただけで、脅えたように数歩後ずさる。
そして決まってこう呟く。

「わりい」

高橋に関しては俺がいくら触れようとも表情一つ変えなかった。
只、一度だけ珍しく足を滑らせた彼の腕を掴んで強く引き寄せた時、聞いたことも無い彼の声を聞いた。

「うわ」

あれ以来、高橋と二人で帰るのが怖い。


「時枝君」

上ずった声で名前を呼ばれた。声の主は恋人の恋人だった。

「ああ、泊か。どうかした? 聡ならトイレだと思うけど」
「う、ううん、そうじゃなくて。 今、時間あ、ありますか? 」

ああ、だからか。 すとんと胸に収まるべきものが収まったような心地になった。
だから彼女の友人達は観察でもするかのようにこちらを見詰めているのか。
妙な薄気味悪い笑顔を浮かべて。

「外、出ない?」

小さな唇が震えているのが分かる。
この唇は、もう彼の唇に触れたんだろうか。

一瞬だけ袖を掴まれた。廊下に連れ出したいらしい。
この手は一体彼の何処に触れたんだろう。

「頑張れ」

後ろから甲高い大きな叫び声がした。
驚いて振り向くと、口元を押さえて周りからどつかれている向井が居た。
皆にやにやしていて、気分が悪くなった。

何でこんな目に遭うんだ。 そんな思いが頭を掠めたが無理矢理掻き消した。
自業自得だ。聡が思うならまだしも、俺が思うようなことじゃない。

「聡は盗らないから安心しなよ」

小さく縮こまった背中にそう声を掛けると、勢いよく振り向かれた。

「ほ、本当に好きなの?……聡のこと。」
「聡」と思わず乾いた口の中で復唱した。なんだか彼女には似合わない。

「好きだとしたらどうする気なの。泊は」

相変わらず俺は質問を質問で返す癖が直らない。
言われた相手が困るのは目に見えているのに、答える機会を先延ばしにしたくてつい言ってしまう。

「分からない。」

勢い余って彼女の肩を掴んだ。何考えてんだ、こいつ。
掴んだ力が強すぎたのか、彼女は痛そうに顔を歪める。

目が合って、やたら熱っぽいその瞳にぞっとした。急いで手を離す。


「周、りこ。どうかした?」

不意に聞こえた彼の声に、鼓膜をなぞられる。
聡は力強い眼差しをこちらに送って、俺だけに分かるよう小さく頷いた。

「りこ、ちょっと来てくれない?」


階段の影に隠れるようにして、二人はなにやらひそひそ話しだした。
掌に顔を埋めたまま動かない彼女を置いて、彼は俺の元へ戻ってきた。


「別れた」

ネクタイをきつく締めながら彼はそう言い捨てた。
まるで自分を戒めるかのように強く強く。

「僕等、焦りすぎてたんだよ。親が結婚を期待し始めたときで十分間に合う。」

チャイムの音と重ねるように彼がそう言った。


でも、聡。
それってすっごく自惚れた考え方じゃないか?

相手が結婚を承諾すると断定した上での計画じゃないか。
自惚れすぎてる。

それにやっぱり失礼だ。
もし相手が居たとしても、相手の女性の気持ちを利用するんだぞ。
道具にするんだぞ。それって相手も相手の家族も自分の親も馬鹿にしてるよ。


そう伝えると、彼はきゅっと目をつぶってから「じゃあ、どうするの。」と俺に尋ねた。
彼の目にうっすらと水滴が溜まっていて、そこに手を伸ばすとあっけなく払いのけられた。


ぱたぱたと、泊が小走りで去っていくのを背中越しに感じた。


「……最近、飯田と向井さんが付き合いだしたって知ってた?
 この前なんて、二人で手繋いで校庭歩いてたよ。大胆だよね。みんなの前でキスしたりするしね」

「聡」

「ねえ、周。本当だったら向井さんとキスしてたのは周だったんだよ。
 なんでわざわざ自分から全て壊すようなことしたの」

「聡っ」
「一度賛成したくせに、上手くいかなかったら僕を責めるのかよ。自分で、計画駄目にしたくせに。」

「聡っ!」俺が怒鳴っても彼は口を閉じなかった。

「ねえ、なんで。なんで飯田達は人前で手を繋いでも気持ち悪がられないの?
 キスまでしてたのになんで嬉しそうに騒ぐの?軽蔑しないの?

なんで、男同士って、異性じゃないってだけで、こんな扱いうけなきゃなんないの?」

俺を責める彼の表情や声は今にも崩れそうなくらい儚げで、見ていられなくて、
早く時が過ぎればと目を瞑った。

 

彼女のとはまるで違う優しい指遣いに、こんな状況であるにも関わらず、誘われているような気になった。
すっと伸びて、涙を掬おうとした美しい指。

その指を払いのけるのに、一瞬でどれだけ苦労したことか。

りこが近くに居ると知っての上でこんなことをする。
だから傷つくのに。

懇願するような顔つきの飯田と高橋に、何度も問われた。

「周の悪い冗談だろ?」

その度に下手な演技しか出来なくて、彼らの顔色を一層悪くさせた。
どう接すれば良いのか分からない、と相談し合っていたのを何度も耳にした。


こんなにも好きなのに。
こんなにも大切なのに。


同性だという、たったひとつの事実が僕等を蝕む。
壊すことは可能だし、思っている以上に脆い壁なのかもしれないけれど、
壊す勇気はどうしても持てなかった。

廊下で彼を責め立てながら、そんなことを思っていると久しぶりの感覚に襲われた。
口元を押さえようとして、彼の視線に気づく。


近づかないで、と声を出すことすらできなくて、逃げるように背を向けた。
縺れる足でトイレに駆け込む。指の間から苦い唾液が零れ落ちた。

個室のドアを彼が殴る。

「聡、開けろ」

苦しくて、彼が心配すると分かっているのに、咳が止まらなかった。
吐瀉物と嗚咽と涙が便器を汚した。

「聡」

なんとか呼吸を整えて、何度も僕の名前を呼ぶ周に一言告げた。

「このドアを開いたところで、周に何が出来るの。」

彼の声がぴたりと止む。
暫くしてドア越しにうっすら感じていた気配も消えた。


僕は片づけを済ませて、散々泣いた後ドアを開けた。
視線がいつの間にかトイレの隅々を探していて、落胆している自分が居た。
期待していたということに気づいた。


別れる気は無い。
けれど、このままやっていける気もしない。


時間が、止まってしまえばいいのに。
ずっと動かないで、周りも自分も結婚も子供も何も考えないで済むこの年で居られたら良いのに。

そう心の中で繰り返すのは、今日が何度目だろう。今日で何度目だろう。

 

鞄も持たずに無言で家へ帰ると、彼の姿があった。
片手に鞄が二つぶらさげてあって、また泣きたくなった。

お互いに、もう泣きたくないと思っていたのに。

何度も懸命に目を拭う彼を見て、立っていられなくなった。
道路の真ん中でしゃがみこんで呻いた。

彼が振り向いてくれることを期待しながら。


何か地面にぶつかる音がして顔をあげると、彼の顔が合った。
遠くにふたつのかばんが見える。


「聡、俺、片付け上手だぞ」
「……知ってる。雑巾絞るの上手いもんね」


僕等はこの先、どうすればいいんだろう。
今にも互いの目からは互いに対する気持ちが溢れ出してしまっているというのに。

誰も居ない道路でさえ、抱き合えないだなんて。


家の鍵を開けた途端、靴を脱ぐ間もなく彼に押し倒された。唇が重なる。
やっぱり苦い唾液が染み出してきたけれど彼は止めなかった。

僕も抗わなかった。

数分、いやもしかしたら数秒、もしかしたら数時間かもしれない。
時がたって、ようやく唇を離すと、不思議なことに口から零れたのはほんの少しの唾液だけだった。

恐ろしいほど気分が良くて、彼に笑いかけた。
彼は心底嬉しそうに笑うから、もっともっと嬉しくなって、彼に飛びついた。

そしたら電話が鳴った。玄関から先の静まり返った家の奥で。


「はい、菊川です」

苛立ちを抑えられずに、暗い声で電話に出ると相手は担任である女教師だった。

時枝君もそこに居ますよね、と断定的な口調で言ってから「すぐ来ます」と告げた。
返事を返す間もなく電話を切られた。

彼が首を振る。

「居留守使っても余計言われる。大人しく話聞いとけば大丈夫だろ」
「……こんなに五月蝿い学校だったっけ? 電話するほど?」

明日まで待てば良い話だ。電話をして家に押しかけてまで説教をするほどのことでもない気がする。
あの学校にとって無断早退など、そんなに頻繁にあることでもなかったが、そんなに珍しいことでもなかった。

嫌な予感がした。


家に来たのは、担任だけではなかった。
体育教師と教頭も彼女の車に乗っていた。

担任が呟くようにそっと続ける。

「時枝君、貴方数学の時間遅れて教室に入ってきたかと思えば、
 無言で席にも着かず自分と菊川君の鞄を持って出て行ったそうですね」

四十前後の彼女の声は、年を感じさせないような若さに満ち溢れていて、
年相応の顔との差にぎょっとする。

「はい」

正座をする彼の瞳はどこか怒っているように見えた。

「二つ持って行ったということは、二人で早退するつもりだったということですか」

「いいえ、僕が勝手に持ち出しました」
「僕が鞄を置いて、帰るつもりだったのを彼が見通して届けてくれたんです」

余計なことを、とでも言いたげに彼が小さく舌を打った。
負けずに続ける。

授業に遅れてしまったのは、僕が突然彼の目前で吐いたこと。
彼は気遣って僕の傍に居てくれたこと。
でも、僕が彼をトイレから追い払ったということ。

身を乗り出し、懸命にそう説明した。
しかし、教頭の一言で僕の努力は一瞬にして掻き消される。


「時枝君まで早退する必要ないでしょう」

彼が深々と頭を下げる。
すみませんでした。サボるために菊川君の具合の悪さを利用しました。


「本当に?」

趣味の悪い象柄のネクタイを緩めながら、教頭が尋ねる。
頭を軽く傾けた際に、白髪だらけの髪の毛が床に落ちて不快になった。


「君達、計画していたんじゃないのかい?」

担任が制すように軽く咳払いした。
聞こえなかったふりをして教頭は続ける。

「二人で抜けるつもりだったんじゃないのかい?」
「違います。」

周がやけにきっぱりした口調で言い放った。
先程より、瞳の奥は熱く光っているような気がする。

「違わないだろ」

人の家で呑々と足を崩した体育教師が、面倒臭そうに呟いた。
何故かその顔には勝ち誇ったかのような笑みが張り付いていた。

「時枝、薬局で尋ねたんだよ。お前が此処に来なかったかって」

周の眉が一瞬だけ上がる。
傍で彼の拳がそっと強く握られたのを横目で見詰めた。

「近頃母が風邪気味なようなので風邪薬を買うよう頼まれていたんです。
 薬局の店員さんはそう仰られませんでしたか?」

「いや。何を買うかは聞かなかったんだよ、あえて」

意味深に、まるで僕らに目配せするように彼は隣の女教師をちらりと見た。
自分に向けられた視線に気づいた担任は少しだけ顔を赤らめる。

やっぱり、と彼が小さく小さく呟いた。静かな部屋ではその声さえも十分響いた。
周は恐ろしいほど穏やかな口調で尋ねる。

「先生方は何故、僕が薬局に行くと思ったんですか?」

担任の顔に赤みが増し、教頭と体育教師も居心地が悪そうに姿勢を崩す。
その態度で僕も納得がいった。

「先生、もし薬局に僕が行っていないと知ったら、次はコンビニに行くつもりでしたよね」

周が少しだけ満足そうに微笑んだのを目の端で捉えた。
開き直ったのか、体育教師が頷く。

「避妊具を買ったんじゃないかと疑ったんだ」

隠さない直接的な表現に、担任と教頭が顔を顰めた。
自分の潔さに僕らが心を開いたとでも思ったのか、やたら体育教師が不気味に微笑んでくる。

気持ち悪い。真っ先にそう感じた。
浅く、服の下では鳥肌が立つ。厭らしい。なんでそんな目でしか見れないんだ。

「買いませんよ。 僕達には必要ないでしょう」

僕がそう言うと、周に向けられていた視線は一気に僕へと向けられる。
寒気がした。気持ち悪い

| - | 02:49 | comments(0) | trackbacks(0) |
s
 

どう足掻いても、彼には近づけない。
声を掛けようが、隣に並ぼうが、手をつなごうが、絶対彼自身には触れられない。

薄くて頑丈なフィルターに包まれていて、いつだって彼はそれ越しに私たちを見詰めている。
フィルターはとっても薄くて、今にも千切れそうなのに、その膜に小さく穴を開けることさえも許されない。
もしかしたら触れることさえ許されないかもしれない。

彼のあの膜が剥がれるのは彼女の前でだけ。
膜の中に進入できるのも、気軽に穴を開けられるのも、彼女だけ。

ずぶずぶと嫉妬は私を吸い込む。



「杣野君、今度の調理実習、何作るの?」

彼の隣の席を獲得してから、4日たった今、初めて彼に声を掛けることができた。
下唇を噛んで少し考え込む彼の姿を、
教室の窓際の一番後ろに座っている私が独占しているのかと思うと心が弾む。

「あ、宮沢さんまだ決めてなかったんだ」

彼が私の手元の調理ノートを覗き込んだ。
この学校の調理実習では、
ノートの裏の一覧表にある数種類の料理の中からいくつか選び、
決められた時間内でそれを作らなければならないのだが、
限られた数しかない一覧表の料理はもう全て作ってしまい、今更作りたいものなどなくて決め損ねていた。

彼は身を乗り出して、私の字で書かれた前回の調理実習で作った麻婆豆腐と鶏肉のサラダの作り方や完成図や感想を見詰める
あの時できた麻婆豆腐は最高に上手に作れたのに、私の図ではそのことを微塵にも伝えられない。

恥ずかしい。

「宮沢さんのレシピ、細かいね。わかりやすい」
「ありがとう」

「一覧表の料理、全部作っちゃったんでしょ? それなら、もう載っていない料理作っても良いと思うけど」
「うん、そう思ったんだけど、でも何を作れば良いのか分かんなくて」
「グラタンは? 寒くなってきたから良いと思うよ」

彼が私のために提案してくれた料理を、私が作らないはずはなく、それ良いね。と呟いて調理ノートに書き込んだ。
堪えているのについ口元が緩む。

「そういえば杣野君は何を作るの?」

最初の質問を再び投げかける。
今までちょっとした会話しかしたことがなく、
おまけに今日初めて私から声を掛けたというのに私の舌はするする言葉を滑らせる。

喋り過ぎな自分が気持ち悪かった。

「オムライス」

そう答えた彼と目が合う。彼の瞳に自分が映っているのを確認した。
途端に恥ずかしくなる。

あんなにも彼の瞳に私が映れば、と願ったのに実際映るとなると自分が惨めで堪らない。
滑稽だ。私。

そう気づいて、目を合わせられる筈がなく、私はじいっと自分のつま先を見つめた。

「オ、オムライスって結構難しいよね。たまごを破っちゃいそうになる。」

びゅうっと背後から強い風が吹いて私の首筋を撫ぜる。
あまりの風の冷たさに驚いて、一瞬だけ身を乗り出した。

乗り出したおかげで、少しだけ詰まった距離に居る彼から仄かな香りがして息が詰まった。
もう駄目だ。そう思って調理ノートの提出を理由にその場で話を打ち切った。


「グラタンは一覧表に載っていなかったと思うけど?」

てっきりそう問われるかと思って、答えを用意していたのにそんな必要はまったくなかった。
家庭科を担当する担任は、ノートにちらりと目を通して、
「うん。」の一言で済ませてしまった。

教室に戻ってあの席に着くのはまだ少し億劫で、
職員室の近くをうろうろ歩いていると突然肩を叩かれた。

「宮沢ー、探したよっ。あのさ、今日さ、ラーメン食べに行かない?」

その誘いにはじめは断ろうかと思ったものの、
窓を殴っている外の風の音が私の腹部を撫ぜて気が変わった。

「良いね、行こう」
「やった。あたし日直だからさ、先行って注文しててよ。味噌ラーメンね!」
「分かった」

そう約束を交わしながら教室に戻ると、彼は私の隣ではなく廊下に居る彼女の隣に居た。
二人でノートを見ながら何やら話し込んでいる。

彼らの放つ親密な空気は廊下に居るにも関らず、教室中を包み込んでいて涙が溢れそうになった。

湯気が充満している店内は、唯でさえ空いている私の腹を摩った。
熱を失っていた手足は段々と熱を帯びてくる。

やっぱり、昼食を減らすのはやめにしよう。逆効果だ。

そう思いながら空いた席を探していると、見覚えのありすぎる姿が目に飛び込んだ。
見なかった振りをして遠ざかろうかと思ったものの、
狭い店内で同じ制服を着た彼女に見つけられるのも
どうせ時間の問題だと開き直って声を掛けた。

「こんにちは」「あ、こんにちは」

彼女は軽く頭を下げた。
長い髪の毛がさらさらと頬を撫ぜている。かっと頭に血がのぼるのが分かった。
なんでこんなにも彼女は私の欲しいものばかりを持っているのだろう。

「ひとり?」「ううん、雪ちゃんが後で来る。金澤さんは?」
「私はひとり。
 私の友達は皆、ファミレスなら行くくせにラーメン屋は嫌って言うんだよ。可笑しいよね」

本気で腹を立てている様子の彼女に思わず目が細まる。
けれどすぐに汚い感情が私の中を蠢いて、毒づいた口調で「彼は?」と尋ねてしまった。

首を傾げる彼女に「杣野君は?」と浴びせるように発した。

「さすがに私にだって羞恥心はあるよ。ずるずる啜ってるところなんて見せれない」

そう笑ったくせに、ラーメンを注文した直後に来た友人に誘われて、
同じテーブルで麺を啜るいつもと変わらず彼女は上品だった。

隣に座る彼女はこんなにラーメン臭い中に居るにも関らず、洗剤の香りがした。
彼と、そして私と同じ洗剤の匂いが。

少し汗ばんだ体は店内から出ると急激に冷えた。
熱はすぐさまさらさらと風に流されて、外の空気に溶け込んでしまう。

少しでも熱を捕まえておこうと、カーディガンのポケットに手を突っ込んだ。
私より遥かに短いスカートの裾を友人は寒そうに押さえている。

彼女はそんな私たちを見てけらけら笑い、マフラーを私に、友人に手袋を貸してくれた。
そして、本屋に用があると言って、手を振りそのまま行ってしまった。

「似てるね。金澤さんと宮沢。」

突然の友人の言葉に、急いで振り向く。
タイミング良く強風が吹いて、顔面に当たった。前髪が吹き飛ばされそうになる。

「なんか似てるよ。雰囲気が」
「匂いじゃない?」「は?」

洗剤が同じなんだよね、 そう言うと彼女は手袋に鼻を当てた。

「ん、わかんない。匂いじゃないんだって、なんか空気が似てる」
「へえ、そう」

友人の言葉は深く突き刺さった。
似てるだなんて。そんなこと言わないで欲しい。

確かに彼女とは趣味も合うし、彼女とは洗剤が同じだったのも偶然だ。
私の好きな本は、彼女と彼の好きな本であったりもした。
 
 
私にも、もしかしたらあの膜を破ることが出来たのかもしれない。
 
 
友人の言葉はそんな馬鹿げた期待を抱かせる。
そしてそんな期待は私を苦しめる。
どんなに趣味が合おうとも、容姿が違うんだから、私が入り込める隙間なんて無い筈なのに。
彼女だからあの膜は破れたんだろうに。

汚い感情はずっと脳みそに染み付いて離れなかった。


「宮沢さん」

チーズの入った袋の封を空けていると、三角巾を頭に巻いた彼に名前を呼ばれた。
私の視線に気づいたのか、彼は急いで三角巾を外す。

「やっぱりやめればよかった。星の刺繍はあんまりだよね」

照れたようにそう言って、彼は色とりどりの星の刺繍が施された三角巾をエプロンのポケットにつっこんだ。
愛しくて、抱きしめそうになるのをなんとか耐えた。

「どうしたの? その三角巾」
「三角巾なくしちゃって、昨日スーパーでやっと見つけたのがコレだったんだ」

私は笑った。彼もつられて笑う。
それからボウルに入った融かしたままの卵を見て、思い出したように

「オムライスのライスに具を入れたいんだけど、宮沢さんが作ったときは何にした?」

「ええっとね」調理ノートを開くと、彼がすぐ傍に立ってそれを覗き込んだ。
「あ、待って、その宮沢さんが書いたレシピ、メモして良い?」

高鳴る鼓動を少しでも大人しくさせようと、息を深く吐きながら
「あ、良いよ。このノート貸すよ」と申し出ると彼は嬉しそうに微笑んだ。

あ。時が止まるってこういうことだ。と実感する。
さっきまで後ろで騒いでいた友人たちの声も、
たまごでキャッチボールをしている男子の声も一瞬にして掻き消される。

大袈裟じゃなくって本当に。

「ありがとう」

鼓膜を擽るその声は鳥肌さえ立たせた。

「鶏肉がごろごろ入ってるの、美味しいよ。」
「あ、美味しそう。……でも鶏肉ないからなあ」

私の分の鶏肉、使う?と提案しそうになって留めた。
やり過ぎだ。ここまで彼に尽くす必要は無い。彼だって引いてしまうだろうし。

それに、後で気づいたけれど鶏肉は今日の料理には必要なくて買っていなかった。

駄目だ。彼と会話をしてから私のリズムが段々崩れていく。

気を取り直すように自分の三角巾をぎゅっと縛って、
フライパンに敷き詰めたマカロニやしめじやたまねぎやらの上に、
鮭の切り身を載せてチーズを撒いて蓋をした。

お昼に皆で分けるため、私を含む女子のほとんどは大分多めに料理を作っていた。

お皿を食器棚から取り出して、丁寧に一枚一枚磨き上げる。
そしてフォークも皿と同じように磨いていると、廊下から声を掛けられた。

彼女だ。


「宮沢さーん。もう作り終わったの?」
「うん。あれ、2組はもう授業終わったの? 早いね」

「自習だったから、早めに終わらせちゃった。1組が調理実習って聞いて、
 分けてもらえないかと思って走ってきたんだけど…… まだ皆作ってるみたいだね」

「お昼に来たら確実に何かもらえると思うよ」

と私が返事をする前に「あ」と彼女は私の背後を見て小さく呟く。
勿論その視線の先には彼が居て。
彼女は自分の視線を追う私の視線に気づいたのか、取り繕うように話を戻した。

「あ、この前クッキーをロッカーに入れててくれたでしょ。ありがとう。うれしかった」
「マフラー、本当助かったから。あの日は本当、凍傷になるかと思った」

私の言葉に彼女はからから笑う。口元を袖で隠して、上品に。
そっと近くに気配がして、振り向くと彼が居た。

彼と彼女の空気に塗れてしまう前に逃げだせれば良い。と瞬間的に思う。

「あお。どうしたの」

彼は彼女を“あおい”ではなく“あお”と呼ぶ。
漢字で書くと“蒼”だから本来の読み方としては合っているのだけれども、
彼女はその呼び方を嫌がった。
毎度名前を呼ばれる度に自分で「い」と付け足している。

今日は私が居たから遠慮したのか、それとももうどうでも良いのか、そのまま彼の問いに答えた。

「何か分けてもらえないかと思って、来ちゃった。 杣野君、何作るの?」
「オムライス。……言っておくけど一人分しか作ってないからね」

この場から逃げ出す理由をずっと考えていると、名前を呼ばれた。
「宮沢!目離し過ぎ!グラタン焦げるよ!」
「あ、はいはい」

急ぐ振りをしてその場から離れる。

ああ、助かった。フライパンの蓋を開けながらそっと、ほっと胸を撫で下ろす。
潤んだ瞳を誤魔化すように大きな欠伸をひとつしてみせると、余計泣きたくなった。

良い具合に溶けたチーズは
鮭の切り身やマカロニやしめじにしっかりと絡み付いて、美味しく、
周りからも好評だった。

調理実習の時間だけ、私は大量の優越感にどっぷり浸れる。
なかなかうまく作れず、
べろべろになってしまった友人の料理の隣に自分の料理が並んだりすると、
とてつもない興奮を覚える。

そしてそんな醜い自分を周りに悟られないように、少しだけその場を離れる。


「宮沢さん。これ、ありがとう」

彼がそう言って調理ノートを私に渡した。
頭に三角巾を縛っていた跡が残っていて可愛らしかった。

「あ、ライスの具何にしたの?」
「結局チキンライスの素入れちゃった。」

それから会話は大手へと移り、ほんの少しの時間だけ彼と共鳴することができた。
それでも膜はちっとも消える気配をみせない。

一瞬だけでも膜の剥がれ目を見つけたら逃さないのに。
そこをずっと捕まえて、彼が気を緩めているときだけこっそりとお邪魔するのに。


深い溜息を飲み込んで、友人たちの輪へ戻った。


「宮沢さん。似てるらしいよ、私と」

彼女が組んでいた腕を解くと同時に、今まで話していた雪ちゃんから目線を外した。
そして私を捉えたその視線には隠せなかった嫌悪感が滲み出ていて、
思わず目を逸らした。

「私も前言われた。……似てるかなあ」

平然を装って笑ってみる。彼女もにこりと笑った。

「うん、空気っていうか雰囲気が似てる」
「あ、分かるかも。なんか似てるよね、二人。」

なんだか妙に居心地が悪くなる。
彼女と顔を合わせて互いに苦笑いを浮かべた。

「あんたたち二人で長く話したこと無くない?」
「クラス違うし、喋る機会が無いよね」「うん」
「遊んでみなよー。」


強引に周りから薦められ、放課後何故か彼女と二人で遊ぶことになった。
といっても先日写真集を買ってしまった所為で、
私はお小遣いを使い果たしてしまっていたため何処か行き様にも行けず、
仕方なしに彼女を私の部屋に誘った。

「ココアで良かった?」
「うん、ありがとう。 ……趣味合うね、私たち」

私の本棚を眺めながら、彼女が言った。
そして私の愛読している数冊を手に取り「これ、うちにもあるよ」と微笑んだ。
眩いその笑顔に私はまた惨めになって、急いで顔を背けた。

するとタイミング良く、部屋の戸を外側から小突かれて、戸を開くと弟だった。
子機を片手に立っている。私は彼女に断りを入れてから廊下に出て戸を閉める。

「誰から?」「おっさん。多分、先生」

そう言われて億劫がりながらも電話に出るとなんと意外なことに相手は彼だった。
驚いて、返事をするどころか台所に向かって歩く弟の後姿を睨みつけることも出来ずに
ただただ子機を耳に当てたまま、
彼に不安げな声で二度ほど名前を呼ばれるまで突っ立っていた。

「ごめんね、急に電話なんかしちゃって。」

確かに弟が間違うのも無理はない、
と思うほど電話で聞く彼の声は実際より随分大人びていた。
先生たちも本当にこんな声だったら良いのに。
そしたら一言も聞き逃すまいと必死になって声を追いかけ、ノートをとるのに。

いや、もしかしたら声を追うことだけに夢中になって
それ以外は何も手につかないかもしれない。

そんなくだらない想像を膨らませている最中に
突然担任や数学教師の顔が思い浮かばれて一気に気分が悪くなった。

やっぱりある程度整った顔つきの、彼の声だと思うからこそ心地良い声だと感じるのだ。

「どうかしたの?」
「うん、あのさ。俺今日、宮沢さんに調理ノート借りて、返したでしょ」「うん」
「……でもさ、実は今手元に宮沢さんのノートがあって」

「え、うそ。ちょっと待って確認する」

私はそう言って彼女の待つ部屋の戸を開け、自分の鞄の中を漁った。
熱心に数冊の私の文庫本の表紙を見詰めていた彼女は、
そんな私を一瞥してから、また視線を本へと戻した。

「あ、本当だ」

彼の言う通り、私の鞄の中には彼のノートがあった。

「ごめんなさい。調理ノート明日提出だよね?」
「あー、そうだね」

本来なら放課後までに作った料理の感想等をつけて提出しなければならなかったのだが、
今日は先生が午後から出張だったため、ノートは明日の朝提出ということになっていた。


「持ってくるよ。宮沢さんの家って何処?」

彼の提案に思わず胸が弾んだが、近くで本を眺める彼女を見て我に返った。
沈黙を訪れさせないように言葉を濁しながら再び廊下に出て

「私も気づかなかったんだし、杣野君だけに非があるわけじゃないよ。
 何処かで待ち合わせしよう。家から一番近いお店って何処?」

問いながら、何を着ていくか考えた。
この前買った靴を履いていこう。

いや、その前に彼女をどうにかしなければならない。
彼女にはなんて言おう。

「俺が借りなければこんなことは起きなかったんだし、
 親切にしてくれた宮沢さんに非は全くないよ」

断言する彼にこっそり感動しつつも負けないようきっぱりとした声で
「ううん。貸すって言ったのは私だよ。私のお節介が原因だもん」

彼は困ったような、わざとらしい溜息をついて「意地っ張りだなあ」と受話器越しに囁いた。
そんな言葉にさえもときめいてしまう自分に我ながら呆れる。

「正直俺の自己満足っていうのもあるからね。宮沢さんは本当気遣わないで良いよ」

遠慮がちなその声に、失敗してしまった。と落胆する。
彼のためを思って言ったのに、結局彼に気を遣わせてしまった。

「ん、でも申し訳ないし」
「じゃあ宮沢さん家に一番近い建物教えてよ。其処に行く。」

これ以上彼をうんざりさせてしまうのが怖くて、私は自分の家の近くのスーパーの名前を告げた。
そして「分かった。すぐ行く、」と行った彼に
「ごめん。ちょっと今人が来てるから三十分後で良いかな?」と尋ねる。

彼はこちらに気を遣わせないやさしい言い方で勿論、と答えて電話を切った。


ほっと息をついたのも束の間に、急いで部屋に戻る。

「ごめんね、待たせちゃった」「ううん、全然。」

彼女は綺麗に首を振る。妙に後ろめたくなった。
てっきり「誰からの電話?」等と聞かれると思って覚悟していたのに
彼女は本の話題を持ってきた。

「宮沢さん、この写真家好きなの?」

首を傾げる私に彼女は「ほら、この本の表紙、みんなこの人が撮ってる。」
と言ってカバーの袖を指差した。

確かにそこには同じ名前が並んでいて、自分でも驚いた。

「その本は全部表紙に惹かれて買ったものなんだけど、気づかなかった」
「私もそういうことあるよー。CDジャケ買いしたら同じ人が描いてた絵だった、とか」

「妙に嬉しくなるよね、そういうのって」
「分かる。でも自分にしかわかんないんだよね」

妙な話題で盛り上がっていると、盗み見た時計の針は電話を切ってから12分も過ぎていて、
急いで話を打ち切った。

「もう外暗いけど、大丈夫?」

と暗に帰ることを催促すると、
彼女も私の意図を察したらしく「そうだね、帰ろうかな」と立ち上がった。

ほっとした気持ちで胸を撫で下ろす。


そして彼女を玄関まで見送った後、急いで髪を梳かして、服を着替えた。

随分伸びてきた髪の毛を結びながら彼のノートを開く。
彼の字は縦長で濃く、硬く厳しい印象を受けた。

落書きでもありそうなものなのに、ノートの四隅は全くの白紙で正直少しだけがっかりした。

綺麗に頭の上で丸まった自分の髪型に満足してから
財布と彼のノートをバッグに入れて、
最近買ったばかりのお気に入りの藍色のパンプスを履く。
さり気なさを装ったその格好は、下心など微塵にも感じさせなくて思わず笑った。

最後にまた髪の毛を整えて、急ぎながらも息が切れないよう、早歩きでスーパーまで向かう。

派手な配色の靴を履いた彼は、自販機の前でカーキ色のコートを羽織って白い息を吐いていた。
フードの周りについたファーがやたら暖かそうだ。

「ごめんなさい、待った?」

自分で言った言葉に思わずにやける。馬鹿だ。
「ううん、今来たところ」そう言って彼もにやける。二人で同時に吹きだした。

「ごめんね、きちんと確認して返せばよかった。」
「こちらこそ。受け取ったときに確認すれば良かった」

私たちは互いのノートの両端を両手で掴んで相手に手渡す。

「すごい分かりやすかった。有難う」「どういたしまして」
「料理上手だね、ノート見て感動した。」「絵が酷いでしょ?」

そういうと彼は困ったように笑った。さすがに嘘はつけないらしい。
自分でも認めるほど私の画力は酷い。


「それじゃ、私晩御飯の材料買うから」

折角出来た暖かな空気に包まれたまま離れたくて、沈黙にならないうちに店内を指差した。
すると彼も驚いたように「実は俺も買い物を頼まれてて」と少しだけ気まずそうに呟いた。

緑色のカゴを片腕にぶら下げて、二人で買い物をするのは楽しかったけれどそれ以上に気が重たかった。
安い鶏肉が買いたいのだけれど、手を伸ばすのをどうしても躊躇ってしまう。

「今日は、夕飯何にするの?」
「多分鍋かなあ、白菜が大量に家にあるし。茹でれる旨いもの買って来いって言われたし」

へえ、いいね。私も鍋にしようかな、
そう呟くと彼は「あ、やっぱり夕食は宮沢さんが作ってるんだ。偉いね」と私を褒めた。
少し呟いたときに期待はしていたものの、見事に予想が当たって恐ろしいほど胸が弾んだ。

耐え切れなくなって彼に隠れて目を瞑る。


「あ、もうこんな時間だ」

私が確かめるように振り向くと、彼は手に持っていた懐中時計を急いで
コートのポケットに突っ込んだ。
不可解な行動に眉が顰まる。
彼が観念したようにポケットからまた時計を取り出した。

「……爺くさいでしょ。懐中時計なんて」
「そうかな? 格好良いと思うけど」

彼の大きな手の中にずしりとした存在感を放つそれは、
とても細やかなデザインで、数字のひとつひとつが綺麗に浮き出てぱっと見ただけで今何時か知ることができた。

「腕時計より見やすいんじゃない? もらい物?」
「いや、恥ずかしながら自分で買った。これのためにすっごいバイト頑張ったの。
 俺憧れててさ、懐中時計に」

彼の気持ちはわかった。
私も昔、以前見た絵本の影響で懐中時計に惹かれて、憧れていた。
でもそれは一時のことでそんな思いはすぐさま消え去ってしまっていたけれど。

「俺はしつこくてさ、ずっと諦めきれずに懐中時計欲しがってたんだ」
「私も杣野君の見たらまた欲しくなっちゃったな。」

私の言葉に彼の顔が明るんだ。途端にその場の空気が華やぐ。
頬が自然に緩み、心が和んだ。

「今まで爺くさいとしか言われたことなくて。
 ……だから隠してたんだけど。 そう言って貰えるとすごい嬉しい」

「堂々と使えばいいのに」「持ってるだけで満足だから」
「そっか」「じゃ、俺はそろそろ帰ろうかな。…宮沢さん一人で大丈夫?」

本当は引き止めたかったけれども、
彼女でもない只の隣の席の私がそんな図々しいこと出来るわけなくって、
「勿論」と彼みたいに相手に気を遣わせない言い方を真似して、手を振った。

大きく手を振って、
背を向けたきり一度もこちらを振り向かない彼は、
一段と膜が張り詰められていたような気がした。

「え。今日鍋?」

祖母からの北海道旅行のお土産に貰った鰤に
包丁を入れていた弟の手が、買い物袋を見て止まった。

「と、思ったけど明日にしよっか」
「いや。これも鍋に入れよう。ばあちゃんからのお土産の中に鰤もあったし」
「でもあんた何作るつもりだったの」「海鮮鍋」

弟の包丁を握る手にはまったくの無駄がなく、すとんと大きな白菜が綺麗に割れた。
とんとんとん、と一定のリズムを刻みながら包丁がまな板の上を弾ける。
かちゃかちゃと小気味良い音を立てて食器と食器がぶつかって、
ぽちょんと具が湯を張った鍋の中に。

台所が奏でる音楽は、私の鼓膜を震わせ、お腹を空かせる。

「ばあちゃん、蟹は送ってくれてなかったみたい」
「蟹よりこっちのが美味しかったんじゃないの。
 大体こんなにいっぱい送ってくれたんだから、ケチったわけじゃないだろ。」

表現していない言葉の裏まで読まれて、返す言葉がなかった。
黙っておたまやお皿の準備をする。

エプロンの中で携帯が振動した。
珍しく前の席の男友達からのメールだった。

“今なにしてる?”

ご飯作ってる、と返すと“何作ってるの”と返ってきた。
ああもうまどろっこしい。絶対こんなものより電話の方が効率良い。
そう思いながらも私の指はボタンの上をするする滑る。

“え、鍋?いいな。 ちょっと今からお前ん家来るわ”

“鍋っていっても一般家庭で言う土鍋の中に白菜とか肉を入れてそれを食べる、
 とかいうそういう鍋じゃなくって、私の家の場合は鍋そのもの、陶器を食べてるんだよね。
 だからさ、笠里に家に来られると土鍋の分け前が減るから来ないでくれる?”

“どんな断り方だよ!面倒くさいわ!
 お前ん家行くと、お前の弟にすっごい迷惑そうな顔されるんでやっぱやめとく”

“まだマシだって、舌打ちされたことあるよ、私。”

くだらない会話をだらだらと続けてにやけていると
いつからか部屋中に湯気が満ちていて、手足の冷えがなくなっていた。

「ごめん、水斗。ご飯出来た?」「当たり前」

肉団子の表面がが煮詰まって、少しずつほぐれてきても両親がまだ帰ってこないので、
四人分ある食料から二人を他の皿に移して、弟と一緒に鍋をつついた。

「鶏肉旨え」
「え、うそ。無いよ」「探り箸するなよ。下品だな」
「いや、鍋は探るものでしょ」

ほうほうと暖かい湯気は水蒸気となり、私達の手元を濡らした。
大根にしっかり染み込んだダシの味や、
白菜や鰤のやわらかさは最近食べた料理の中でもっとも印象強いものとなった。
静かに、確実に、鍋の中身は硬さを失っていき、私の体は熱を帯びていった。

彼とご飯が食べられたら、とそっと思う。
そして今向かい側に座っているのが彼だと想定する。
腕をまくって、長い指で箸を握り、額にうっすらと掻いた汗を手の甲で拭う。

どんなに頑張って、目を凝らして目の前の男性を見つめても、やっぱり弟は弟でしかなくて。
家族相手に何をやっているんだ、と我に返って、再び鍋に箸を伸ばした。

「あ、明日人家に連れてくるから、遅く帰ってきて」

白菜を飲み込んでから、意を決したように弟がそう言った。

「良いけど。」「絶対六時半以降に帰ってきて」
「明日の夕食作り、お願いね。それとこれの後片付けも」

私が笑って鍋を指差し席を立っても、弟は珍しく小言のひとつも言わずに黙々と食器を洗った。



今日はなかなか綺麗に髪の毛が纏まったので、珍しく頭のてっぺんに乗せてみた。
いつもは晒さない実は結構自慢の首筋や、すぐ赤く染まる耳が風に当たって痛かった。

窒息死しない程度に強くマフラーを巻き、コートの襟を立てる。


「わ、おそろいだ!」

校舎内でのマフラーの使用は禁止されているため、
靴箱でひとり、マフラーを解いていると後ろから大きな声でそう叫ばれ、驚いて振り向くと同じ髪型をした彼女が居た。

「宮沢さん、首綺麗ー」
「ありがとう。それにしても偶然だね。」「だねー。嬉しいな」

手袋をしていたにも関わらず、外の空気に触れた手は外温以下の冷たさだった。

「今日はね、髪の毛の調子が良くて、思い切ってお団子にしたんだ。」
「あ、あたしもだよ」

違う。やっぱり違う。何処が似てるっていうの。
同じ髪形をしているのに、私達が着ているコートだって、手に持ってるマフラーだって
何処となく似ているのに、私と彼女はまったく違う。

少なくとも私はこんなにも美しく微笑むことなんて出来ない。絶対。

「それにしても昨日は、ありがとうね。」
「ううん。ごめんね、何もなくて。つまらなかったでしょ?」
「全然。」

彼に似た相手に気を使わせない言い方で彼女は私の言葉を否定し、
ワンテンポ置いてから何か思い出したように「あ」と大声を出した。

周りの数名がこちらを振り向く。

「うわ、ごめん、大きい声出しちゃって。あのね、昨日ね」
そう言って彼女は自分のメッセンジャーバッグの中身を探る。

「宮沢さんの家に沢山あったあの写真家の写真集をね、
 杣野君が持ってたから貸そうと思って借りてきたんだけど……ごめん、ないや。
 家に置いてきちゃったみたい。今度で良い? ごめんね」

「ありがとう。わざわざ。昨日金澤さんに言われてからあの写真家気になってたんだ。」
「どういたしまして。 じゃあね。」


彼女と別れた後、私の手はすっかり汗ばんでいた。

「家に置いてきちゃったみたい」

そう洩らしたときの彼女の表情、声のトーン。
苛立ちと優越感の両方を感じることが出来た。というより、感じさせるような言い方だった。

きっと昨日、彼の家で鍋でも食べたのだろう。

「家に置いてきちゃったみたい」

あのときの歪んだ唇。強い眼差し。高くなったトーン。
気づいてる。彼女は確実に気づいている。

大きくなる恐怖心から無理やり目を逸らして教室に入った。


「おはよう」

藍色のカーディガンを羽織った彼が、私の顔を見るなり微笑んでくれた。
そのおかげで恐怖心が萎んだような、膨らんだような気がした。

「あおから、宮沢さんがこの写真家が好きって聞いたから。良かったら」

そういって彼は机の中から一冊の本を取り出した。

「ありがとう。金澤さんがさっき言ってた。杣野君の家に忘れちゃったって。」
「そうそう。人の本棚漁ってこれ見つけて喜んでたくせに忘れちゃってるの」

くすくす思い出し笑いをする彼は、全然いつもと変わらなくて。胸がざわついた。

「昨日、私服見たときも思ったけど、センス良いよね。宮沢さん。」

私に写真集を渡しながら彼が微笑んだ。

「ありがとう」

嬉しいはずなのに、私はこの場から逃げ出したくて堪らなかった。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

だからいやだ。恋なんてしたくない。
自分が惨めになるばかりで、昔は軽く憧れていたさえ彼女にまで汚い感情しか向けられない。
美しい彼とはかけ離れた自分が、周りからどう映っているのか。そんなことを考える前にまず自分で嫌気がさす。

好きなのに、いや、好きだからこそ、会話したくない。
でも関わりたい。彼女と話している姿を彼が仲良く会話している姿を見たくない。
私だけのもので居て欲しいけど、そんな彼はきっと美しくない。
私に毒されてしまう筈。

そんなことを考えていたら気持ちに締まりがつかなくなって、彼に心配された。

「宮沢さん?」

きっと彼は、私の目の淵にうっすら溜まった涙に気づいている。
私のこの小さい瞳を見詰めている。

恥ずかしくなって、
前髪をいじるふりをしながらなるべく彼に顔を見られないように、そして彼の顔を見ないようにした。
彼はそんな私に気を遣ったのか、私が面倒くさくなったのか、椅子に座りなおして前を向いた。

私も席に着いて彼から受け取った写真集を眺める。
すると、昨日私のメールボックスの受信箱を埋め尽くした高波灯也が、無遠慮に私の手元を覗き込んだ。

「鍋の写真じゃん。」

ちょうど、きれいな闇をバックに湯気のたつ鍋を中心に置いた食卓の写真を見ていたのだ。

「やっぱ色合いとかで味も決まるわけ?茶色は少し苦いとか、灰色の鍋は齧りにくいとか。」
「やめてよ。あたしが土鍋食べてること、ほかの人には言ってないんだから」

そういうと彼は吹き出して、「意味がわからん」を連発した。

「そういえば宮沢って料理と写真のイメージある。
 料理作りながら、美味しそうなところを写真に撮ってそう。」

時々そういうことをしていたので、言い当てられて吃驚していると勝ち誇った顔で高波が笑った。

「んで、その写真を後で見てにやにやしてるんだろ。」
「しないよ、そんなこと」

私はそんなに性格どおりのイメージを醸し出しているのだろうか。

「にしても宮沢料理うまいよなあ。なんでそういう高校選択しなかったの?」
「趣味の程度だから。自分の腕で食べていけるとは思わないし」
「いやいや、調理実習のとかさ、宮沢の料理厭味みたいにうまいから俺は周りが可哀相になるよ」

彼の言葉に肩がびくりと揺れた。
でも彼は自分が最高に私を傷つける言葉を言い放ったなんて気づいてもいなくて、可笑しそうに一人で笑っている。

気づいたときには、すとん、と心地よい音がして手に持っていたはずの写真集が床に横たわっていた。
無言で杣野君がそれを拾う。

「ご、ごめん。」

彼は静かに首を振り、写真集を手渡す。
受け取った写真集のひとつの角が潰れてしまっていた。

急いで謝罪をすると彼は再び静かに首を振り、私を制した。

「宮沢さん落ちついて。大丈夫。そこ、元からへこんでた部分だから。」
「ううん。借りたとき綺麗だった。……本当ごめん」
「ほんとに大丈夫だから、ね。」

そういって遠慮がちに彼は私の顔を覗き込む。
そのせいで余計に顔が上げられなくなった。

「宮沢気にしすぎ。気にしないでいいって言われてんじゃん。
 大体杣野はそんな風に角が潰れたぐらいでちまちま言わねえよ。」

無遠慮な高波の声に、とっさに強い口調で言い返す。

「だってすごい綺麗だよ。新品じゃないのにこんな綺麗な状態なのは大事にしてるからだよ。」

私はそっと彼の写真集を撫ぜる。
彼の気配を含んだそれは、まるで彼を撫でているかのような錯覚を覚えさせてくれた。
どきどきする。

「ごめん」
「大丈夫なんだけどなー」

困ったように頭を掻く彼は助けを求めるように高波を見た。
ああ、また困らせてしまった。どうやったらうまいところで切り上げられるんだろう。
彼のやさしさをすんなりと受け入れて平気な顔をするなんて考えられないし。

「んじゃ、宮沢の教科書の角でも潰せばいいじゃん」


高波が杣野君の視線に気づいたのか、そう助言した。
私と彼は苦笑した。

「とにかく、大丈夫だから」
「ほんっとにごめんね」「気にしないで」


 弟との約束を守るため、放課後、私は学校をうろついた。
人の気配がうっすらとしか残っていない廊下を歩くのは気分が良い。
外を眺めると五時とは思えないほど真っ暗だった。

汚い窓を開いて身を乗り出すと真っ白な息が上へと舞い上がる。
自分の息がやがて雲になるような気がしてじいっと見つめるが、結局は途中で消えてしまう。
それがなんだか悔しくてまた息を吐く。

その行為を何度か繰り返していると後ろから声が掛けられた。

「あお、なにしてんの」

私が振り返る間もなく、後ろから抱きすくめられる。
え、と私が動転するより早く、彼が驚きながら体を離した。

「ごめん!」

真っ赤な顔をした彼は俯いて小さな声で「……あおと間違えた」と付け足す。

「今日、髪型同じだったもんね」

今にも飛び出しそうな心臓をなんとか喉元で押さえ込みながらそう答える。
彼はほっとしたように笑った。

「っと、あお知らない?」「ごめん。わかんない。」
「そっか。暗いから帰るときは気をつけて」「うん、ありがとう。今日はごめんね」
「だから良いって。……じゃあね」

彼がそっと手を振る。私も急いで振り返した。

少しだけしか触れていないのに彼の体温の余韻がまだ残っていて、私はその場に蹲った。
見つけた膜の剥がれ目はあまりにも緩かった。今までの葛藤が馬鹿みたいに思えるほど。


「宮沢?」
発するまでに躊躇されたであろうと思われる声に名前を呼ばれて顔を上げると、
汗臭そうな体操服を着た高波が居た。
後ろの方に群がっている同じく臭そうな彼の友人たちは興味深々で互いの肩越しから私を覗き込む。

「どうした?」と尋ねる高波の声に
「腹痛い?」「あ、宮沢シェフだ。」「足でも挫いたか?」という自由な声が重なる。

彼らは全員同級生だった。
それに気づいた私は安心しながら急いで立ち上がって「なんもない」と手を振る。

「さっき杣野が探してたぞ」と高波の隣に居る背の高い男子がそう言った。
途端、「宮沢じゃなくて金澤だろ。あいつの彼女の」と後ろや横からどつかれる。

「いや、金澤は今日早退してたから。保健室で金澤の荷物持った杣野に会ったし。」

とどつかれた彼、東通君が冷静な声でそういうと彼をたたいていたいくつもの手が同時に止んだ。
それと同時に私の心臓も止まった気がした。

あおなにしてるの。あおとまちがえた。っと、あおしらない?
彼の言葉を鮮明に覚えている自分にたじろぐ。

話はそこでほかの話題に飛んだため、彼が彼女の居場所を私に聞いたことは黙っておくことにした。

「つか宮沢なんでこんな時間まで居るんだよ」
「弟が家に人、多分彼女を連れてくるらしいから六時半まで家に帰っちゃいけないの」

私がそういうと彼らは楽しそうに盛り上がってから、挨拶をして帰ってしまった。



 「き、昨日、金澤さんが早退したって聞いたけど、大丈夫なの?」

私がそう尋ねた瞬間、彼はこの世が終わったかのような顔ををした。
打ちのめされた顔とはまさにこんな顔だろう。

「うん、大丈夫だと思う。」

彼はいつもよりうわずった声でそう言って、笑った。
それなら良かった、と言ってわたしも笑う。

駄目だ。折角ここまで踏み切ったのに。
核心に触れられない。

彼の膜はもう完璧に外れた。
二度と張らせたりなんかしない。


「ごめん、昨日、うそついた。」

彼が観念したように詫びる。私は動揺した。
もしかしたら、と昨夜から抱いている淡い期待が膨らむ。
駄目だ、心臓が痛い。

「あおと間違ったのが恥ずかしくて。
 あんなことした後に、あおが早退したってこと思い出して。
 ……宮沢さんは早退したこと知らないだろう思って嘘つきました。すいません」

彼は卑怯だ。
私が彼の嘘を見破っていると知っていながらも嘘をつく。

責められない。問いただせない。
こんなはっきりとした拒絶を無視できない。

悔しさをなんとか誤魔化そうと、最後に足掻いてみる。

「杣野君、……ほかにはもう、私に言うことない?」

なんてうぬぼれた質問だろう。
普段の私なら決して口にしない質問だ。

それでも口に出来たのは、絶対的な自信があったからだ。
彼の声で、期待は確信となった。彼はそれにも気づいている。


「言えない」

掠れたその声の持ち主は、申し訳なさそうに目を伏せて自分の席から離れた。


酷い男を好きになってしまったものだ。
それが分かったのに、それでも尚、長く話せたことが、彼の気持ちが、
泣きそうなくらい嬉しいなんて。
| - | 02:39 | comments(0) | trackbacks(0) |
BUMPと島本さんと小野Dと
うとりあえず好きなもの、人に囲まれて一生過ごしていきたい。
ああ、BUMPはやっぱりすごいなあ。島本理生もやっぱりすごいなあ。
小野大輔さんもRADも沢山居る小説家も映画監督も奥華子も、YUKIちゃんも。

何かを作る人ってほんとすごい。
羨ましくて堪らない。
| - | 00:10 | comments(0) | trackbacks(0) |
まくはとじた


読み終わりました。ああ、勿体無い勿体無い。
まだ続編を期待しています。夢小説に縋ってしまいそうです。

最後は平和で、温暖で希望をもたらす終わり方だったけれど、でもかけたものが多すぎた。

ネタバレはいります
続きを読む >>
| - | 22:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
不安なんて微塵もないつもりだった
 んか、圧倒された。
言葉がでなくて、自分がはいろうとしている世界の大きさを再確認した。

わあ、どうしよう。
続きを読む >>
| - | 10:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
音符をなぞっているんだ
占いに行ってきました。
なんかとりあえず色々自信がもてました。当たったりなんだか違ったりして不思議な体験をしてきました。

小説を書きたい、ということをはじめて面と向かって人に伝えたので照れた照れた。
現実感を残しつつも少女漫画チックなものを書いたらいいそうです。
なんだか分かる気がします。

三者面談や祭りがあってなんだかごたごたな一日でした。
作って持っていったスコーンもどきが人気でびびった。見た目ひどかったのに。

過疎化はほんとにどうにかして食い止めたい。
あんなに昔はそれなりにもりあがっていたのになあ。寂しいなあ
| - | 22:09 | comments(0) | trackbacks(0) |
手を繋いで眠ろう、貴方と、(君と)
やっと上が読み終わりそうです。勿体無くてページが進められない!
あえて良い展開のところで閉じてしまいます。

ああこれで終わるのかと思うともう寂しくて寂しくて。
かつてないロンハーぶりに嬉しく思っております。紳士を振舞おうとしているロンが格好よすぎる。
| - | 19:38 | comments(0) | trackbacks(0) |
呼吸をするのと同じくらい自然なこと
ハリポタ最終巻発売日!
手に入れました!!もう数ヶ月も前から注文してて、やっと届きました!!

ぬはあああああああああああああああああ!
勿体無くて読めない読めない読めない読めない!

小学二年生からずーっと私の思考のほとんどを占めていて、生活の一部になっていたので
本当に寂しい(´゜Д゜`)

思えば四巻から変わってきていて、第一章がハリー以外の人物視点で描かれるようになったり、上下に別れたり人が死ぬようになったりして……。

本当、勿体無くて読めない。早く読みたいけど読めない(´゜Д゜`)
ああ、夏休みの宿題なんてくたばれっ!
| - | 17:21 | comments(0) | trackbacks(0) |
繊細で、正直で丁寧だ。
年恒例、小学6年生と中学3年生でお泊り会をする企画に参加してきました。
6年生は全員強制で3年生は半強制でした。だから参加しない人も居ましたよ。
先生達が内申点のために…薦める薦める。

妹が6年生なこともあり、面倒くさくて最初は参加するつもりじゃなかったんですけど、
見事に参加者が居なくて。

参加してきたわけですが、予想以上に面白かった。疲れたけど。
夜は男子の部屋に行ったり、男子のテントの近くで男子の密談を盗み聞きしたり。
怪しいことばっかりでした。

3人の女子だけが男子のテントに居て、見回りが来たときに男子が上半身裸だったのでなんだかいやらしかったです。
不純異性交遊(´゜ω゜);;*
普段聞けないようなおはなしがたっくさんできて楽しかったです。

テントをちかくにおきたかったのに、先生達がやたら変な妄想をめぐらせて、すっごい遠くにしたのでそれがまたきもちわるいきもちわるい。
見つからないようにすっごい遠回りしてテントまで行くのがたのしかったですけどね.+(´^ω^`)+.

ご飯はほとんどおばちゃんたちが作ってくれたんですけど、カレーにピーマンやシーチキンを入れたり、味噌汁にキャベツをいれたりしててすごかったです。
食べようと思えば食べれるし、実際完食しましたがなんだか奇妙でした。
カレーは酸味が強い強い。隠し味のケチャップが隠れてないない。

PTA会長がすっごい変な人でツボでした。マジックをしてくださいました。DVDにしたい。

きもだめしは小学校校舎内でして、小学生のおんなのこ2人としたんですけど私が一番びびってました。
中学生でしょ!って言われました.+(´^ω^`)+.

保護者がとってもお茶目で。
最初、きもだめしの準備を待つ間にマジックをみて、その後やっときもだめし……とおもったら先生が
「時間がないので花火をしてスイカを食べて終わりましょう」って言うんですよ。
それで皆不機嫌になって。一応花火はしたんですけどね。
そしたらいきなり校長先生が

「はやくあつまれ!きもだめしをするぞおおおおおおおおおおおお!」
って叫んで。

保護者達が喜ばそうとして嘘をついたらしいです。
面白かった.+(´^ω^`)+.

レクリエーションも面白くてひとりで大笑いしてました。怪しい怪しい。
とっても面白かったです。
でも数年前参加したときに比べるとだいぶ貧相になってしまっていました。
参加者もとっても少ないし。
過疎化をすごく強く感じてなんだか寂しかったです。

空のむこう、約束の場所と秒速5センチメートルとパプリカのDVDを借りました。
夏休みが楽しみです.+(´^ω^`)+.

スタンドバイミーとかスチームボーイとか気になってた作品にそろそろ触れたいです。
| - | 22:25 | comments(0) | trackbacks(0) |